名前殿、そう名前を呼ばれてもう七度目だ。何ですか、と振り返れば幼い頃よりお仕えしている秀秋様が視線を泳がせながら立っていた。あの、その、と言葉を濁してしまうせいで、言いたいことが何一つ理解出来ない。忙しい女中の身としては、はっきりいって迷惑だ。けれど、我が主にそんなこと言えるはずもなく、私はぐっと堪えて秀秋様の言葉を待った。
「実は、名前殿にお願いが…」
「お願い?何でしょう、私に出来ることならば喜んでお受け致しますが」
「あの、いや…その、」
振り出しに戻ったようにまた言葉を濁し始めた秀秋様に、私は少し声を荒げてはっきり申してくださいと言った。声が大きくなったことに驚いたのか、秀秋様ははっと顔を上げる。心なしか瞳が潤んでいる気がして、私は少し慌てて怒っているわけではありませんと訂正した。こういうところは、昔からかわっていない。もう十分大人だということを理解してほしい。
「秀秋様、私にも仕事があります…急ぎでないのなら、また今度でもよろしいですか?」
「えっ、いや、それは」
「はっきりしてください、優柔不断なのは嫌いです」
つい口をついて出てきた言葉に私は口元を覆ったけれど、遅かった。力なく微笑んでいる秀秋様は、先程よりも泣きそうになっていて急に申し訳なく感じてしまう。嫌い、は言い過ぎたかもしれない。
「私のことなんて…き、嫌い…ですよね、やっぱり」
「いえ、その…秀秋様のことが嫌いなわけではないのです!」
私がそう伝えても秀秋様は、苦笑いで気を使わないでください、と哀しげに瞳を揺らすだけ。そういうところは、はっきり言うくせに。そう心で呟いて、私は秀秋様の手を握った。この人は昔から世話の焼ける御仁だ。
「私は秀秋様のことを嫌いになったりしません。先程は優柔不断なところが嫌いと申したのです」
「名前殿…」
ぱぁっと顔が明るくなった秀秋様に、私も自然と微笑んだ。
八回目
(明日、城下にでも行きましょうか)(えっ?)(そのために私を呼び止めていたのでしょう?)
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