彼女を初めてみたときの印象は、そこら辺にいるただの女の子。二度目の印象は、あの承太郎の知り合いだなんて意外。三度目の印象は、なんだっただろう。覚えていない。
スタンドだって見えやしないし、成績は普通、運動神経も人並みだし、とりたてて自慢できるようなこともない。
そんな女の子だけれど、今ではすっかり仲良しだ。
正直、承太郎の紹介がなければ全く関わりあうこともなかったと思う。
だってスタンドも見えないような人間と友達にったところで本当に理解しあえるような関係になんてなれるわけない。

「花京院、今日元気ないね」
「そうかな?ああ、でも昨日ゲームしてて少し寝不足だ」
「夜更かしは美容の大敵よ」
「はは、僕が美容を気にするわけないだろう?」
「うわー、私より綺麗な肌してるからって嫌味なやつめー!」

教室でいつものようにお弁当を広げて、そんな話を繰り広げる。昔の僕が見たらびっくりするだろうな。
スタンドが見えなくたって名前みたいな友達が出来るだなんて考えたこともなかったし。ましてや、女の子とこうやってご飯食べてるだなんて。
ぷくりとふくれ面でソーセージをかじりながら、僕に文句を垂れる彼女に少し笑いが込み上げた。

「あっ、花京院いま私の顔見て笑ったでしょ!」
「いやー、面白い顔してるなと思って」
「なんだと?それを悪口というんだけど自覚あるかな?」
「誉め言葉だよ。名前は何もしなくても笑いをとれるね」
「悪意がある!絶対誉めてないでしょ」

本気でそんなこと思っていないけど、名前とこういう風にくだらない掛け合いをするのは楽しかった。
彼女は人の心にするりと入るのが上手いと思う。最初は仲良くなるつもりなんてなかったというのに、気づけばいつも一緒にいる。しかもそれが心地いいものだから、僕も抜け出せない。
思えばあの女の子嫌いの承太郎が名前には心を許しているのだから、もしかすると凄い奴なのかもしれない。

「ちょっと花京院、私の心を傷付けた罰に放課後肉まん奢りなさいよ」
「いいよ、じゃあそのお返しに僕には餡まん奢ってくれるかい?」
「それじゃ意味ないじゃない!」
「第一僕は君を貶してるわけじゃないし、奢る必要性はないと思う」
「くっ…お前って奴は…」

ぷすり、と2つめのソーセージを箸で突き刺しかじる彼女。いつも僕に口で勝てないのが悔しいと頬を膨らませる。その顔を眺めていても一向に飽きがこないのはどういうことなのか。
もっと見ていたいし、もっと違う顔も見てみたい。
名前は特別可愛いわけではないけれど、どんなに美人や可愛い子が隣に並んでいても僕は名前の方がいいと思う。
なんと言うか、胸の辺りがぽかぽかしてぎゅっと苦しくなる。でも不思議と嫌じゃない。彼女にイライラしても怒っても傷つけられても、隣に居たいと思う。

「じゃあ、奢らなくていいから帰り肉まんは食べにいこう…」
「ははっ、何だ結局肉まんが食べたかったんだね」
「そうだよ、悪い?」
「いいや、名前かわいい」
「えっ」
「あっ」

最初から肉まん食べたいっていえばいいのに、そう思ったらついつい口から本音が漏れた。お互いに、びっくりして動きが止まる。名前がちょっと赤くなるから、僕まで赤くなる。

「なんか調子狂うんだけど…」
「ごめん、でも今のは本当に思ったから」
「……ありがと、初めてかわいいって言われた」

ぶしゅー、と噴火でもしそうな名前に、僕の鼓動が速くなる。こういうところは素直だなんて反則だ。いくつか恋シュミはやったことあるけど、こんなトキメキ僕は知らない。

「か、帰り僕は餡まん食べるよ」
「うん、じゃあ半分こしよ」

これが甘酸っぱい空気というのだろう。お互いに意識しだしたのが丸わかりだ。これから、名前と普通に会話出来るかな。


恋と愛の葛藤

これは恋なのか、愛なのか。とりあえず僕は思った以上に彼女のことが好きみたいだ
back
ALICE+