私の大好きな彼は、今部活中。
テニスをしている姿は、様になっててかっこいい。
彼の周りには相変わらず女の子と黄色い声。
五月蝿くて仕方ない。
少し離れた場所からいつもフェンスの向こう側の彼の姿を見るのが私の習慣。
といっても、大好きな彼を待っているだけだけど。
「跡部、名前ちゃん待ってんで」
「あぁ、じゃあ今日はこの辺にしとく」
「(やっぱ苗字の力はすごいなぁ、宍戸!)」
「(あぁ!あいつがいるってだけで、部活終わるんだもんな)」
「そこ、文句あんのか?」
「ないです!」
彼の一言で部活は終わる。
私はフェンスにもたれながら空を見ていた。
今日も、雲は白い。
しばらくすると、再びあの五月蝿くて甲高い声が響く。
彼が来たのだな、と分かる瞬間。
「待たせたな、名前。」
「ううん」
フェンスの向こう側にいる私の大好きな彼、跡部景吾が首にタオルをかけて立っていた。
まだジャージ姿で、シャワーを浴びていない為汗が時折輝いた。
それすらも周りを魅了する。
「もう少しかかるが、平気か?」
「平気だよ。」
「寒くないか?」
「大丈夫だよ。」
「そうか」と優しく笑った顔は私にしか見えなかった。
景吾ファンの女の子は、未だに黄色い喚声をあげていた。
景吾が戻った後、喚声は私への陰口へと変わる。
毎日そんな感じだった。
それでも私は景吾が好きで、
あの優しい笑顔を見たら嫌な事なんて忘れられたから。
「何なのよ、あの子。調子のってんじゃないわよ、ムカつく!」
「跡部様と全然釣り合ってないよね」
「遊びに決まってるって!あんな子、跡部様が相手にするわけないでしょ」
「わたしのほうが絶対可愛いって!」
そんなことを言われても私は景吾と別れたりしない。
好きな気持ちは誰にも負けないし、景吾も私を大事にしてくれる。
そこに嘘偽りはないと信じてるから、私は絶対に泣かない。
景吾には心配かけたくないから。
「悪い、遅くなった」
「いいよ、おつかれ」
「ああ…何かあったか?」
「何もないよ」
「…そうか」
私の微妙な変化に気づく彼。
素直に嬉しかった。
フェンスの向こう側にいる景吾の後ろに樺地はいなかった。
「あれ、樺地はいないの?」
「帰らせた」
「ふーん」
女の子達の視線が痛い。
「名前、もっとこっち来い」
「何?」
「いいから来いよ」
フェンスにくっつきそうなくらいの位置まで近づく。
すると、景吾は私の手をフェンスを挟んで握る。
あったかい。
再び悲鳴が上がった。
「名前、もっと顔を近づけろ」
「こう?」
景吾も近づく。
ちゅ。
フェンスを挟んで唇が重なった。
さっきよりも悲鳴のボリュームが上がる。
「景吾…!」
「あいつら煩ぇな」
「……そうだね」
「さ、帰ろうぜ」
フェンスの扉を開け、今度は何も挟んでいない状態で手をつなぐ。
さっきよりもずっと温かい。
「何か言って来たら俺に言え。」
「え…?」
「いいな?」
「うん。」
最後に一言、景吾は女の子たちに言った。
「俺の名前に何かしたら承知しねぇからな!」
フェンスの向こう