僕は彼女を愛していた。だけど彼女は彼を愛した。それでも僕は彼女が好きだった。彼女が僕を好きになることなんてなくても、彼が彼女を手放すことがないと分かっていても。どんなに苦しくても辛くても、僕は彼女を嫌いになれなかった。

「名前、」
「ごめんなさい、リーマス。私、やっぱり彼が好きなの、愛してるの」

彼女も、彼を嫌いにはなれなかった。




卒業してから10年経った。相変わらず彼女は彼を愛していたし、僕はやっぱり彼女が好きで、届かないと分かっているこの想いを伝えられずにいる。随分昔から彼女は僕の想いに気付いていた。だけど、僕が彼女に好きだと伝えようとすると決まって彼女は言葉を遮った。彼女なりのケジメだったのかもしれない。僕はまた言えなかった言葉を呑み込んで曖昧に笑んだ。今、彼女の愛した彼はアズカバンに居る。戻ってくることなんてないし、狂っているかもしれない。それでも彼女は彼を想うことをやめなかった。ほんの少しでも、彼女の愛が僕に注がれたらいいのに。と何度思ったことか。

「名前、」
「ごめんなさい、リーマスのことは好きよ。でも…」
「名前、ちゃんと聞いて」

いつものように僕の言葉を遮った名前は、初めて言い返した僕に驚いた表情をした。彼が脱獄してから4年が経つ。彼女の幸せそうな顔を見て複雑な気持ちになった。親友が戻ってきたのは嬉しいけれど、彼女の瞳に僕が映らなくなったのは哀しかった。

そしてシリウスが死んでから1年が過ぎた。また、彼女を独りにした友人は二度と彼女のもとに戻ってくることはない。彼女はそんなこと分かっているけれど。

「君がシリウスのことを愛してるのは知ってるよ。だけど、」
「リーマス…」
「彼はもう死んだ。君は解放されるべきだ!僕なら傍にいてやれる。君に寂しい思いはさせない」

困惑した瞳で僕を見る名前を、そっと抱きしめた。初めて彼女の体温を感じて泣きそうになった。ずっとこの温もりが欲しかったんだ。

「君が好きなんだ、愛してる」
「知ってる、」

シリウスが死んだときでさえ泣かなかった彼女が、初めて涙を流した。それが何のための涙なのか、誰のための涙なのか僕には分からない。ただ、静かに涙を流す彼女に見とれた。そしてゆっくりと僕から離れていく彼女を引き寄せることも出来ない。腕に残る彼女の温もりと匂いが、冷えていく。

「名前、」
「ありがとう、リーマス。私なんかを好きでいてくれて。だけど、あなたは幸せになるべきよ」
「僕は君とじゃなきゃ、幸せになれない!」
「そんなことはないわ、あなたは私といても幸せにはなれないの」

心臓が壊れたように音を立てた。どうして届かないんだ。こんなにも彼女を想っているのに。死んでもなお愛されている彼に嫉妬した。同時に羨ましかった。

「リーマスのことは好きよ。だけど、もう会わないほうがいいのよ私たち」
「どうして!」
「私があなたをダメにしてしまう。私には今もこれからもシリウスしか見えないの」

だから、私のことは忘れて。彼女の言葉に僕はただ呆然と立ち尽くした。

すり抜けてく愛

最後にぎゅっと抱きしめた彼女は、弱々しい笑みを浮かべてさよならと呟いた。どうしたって僕の想いは彼女に届くことはないのだろう。




犬←ヒロイン←狼←トンクス
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