※死ネタ注意
「船長、気分はどうですか?」
「ゲホッ、ゴホッ…ん、大丈夫だ…ゲホッ」
「水、替えてきますね」
温くなった水を替えに、部屋をでた私は座り込む。本当は大丈夫なんかじゃないくせに。本当は苦しくて仕方ないくせに。船長は無理して笑っていた。その歪んだ笑顔が何よりの証拠。
正直、辛かった。みんなの反対を押し切って船長の傍にいることを選んだのは、紛れもなく私。船長が好きだった。離れたくなかった。だけどボロボロの船も船長も私も限界が近い。カームベルトから脱出を試みたものの、舵などとっていない船は波に流され、嵐に遭い、敵戦の攻撃に曝された。医者も船大工もいないこの船は、既に半壊状態で、いつ沈んでもおかしくない。船長以外の感染者はみんな死んでしまった。
「名前…」
「ヨーキ船長、」
新しい水を汲んで部屋に戻ると、船長が何度も私の名前を呼んでいた。消えそうに細い声だった。不安になって、手を握るとヨーキ船長は力なく笑う。そこそこ名のある賞金首には見えないほど、弱々しい。
「船長…」
「名前あの歌を…歌ってくれないか?」
「…分かりました」
船長の好きなあの歌、いつもいつも飽きる程歌ったあの歌をちゃんと歌いきれるだろうか。船長の手を握りしめたまま歌い始めれば頭に浮かんだのはまだ何も知らなかった頃のルンバー海賊団。今頃ブルック達はどこにいるのだろう、ラブーンやクロッカスさんは元気だろうか。船長の苦しげな咳と漏れる吐息が折り重なって、ついに私は涙を抑えられなくなってしまった。
「名前、泣くな…ゲホッ」
「せ、ん…船、長っ」
子供のように泣き出してしまった私を、船長がゆっくり引き寄せて抱きしめてくれた。きっと動くのだって辛いはずなのに。迷惑を掛けたくないのに、船長から離れられない。揺れが激しくなってきた船内に、水音が響く。きっと浸水したんだろう。この船は直に沈む。それを察したのか、ヨーキ船長は言った。
「名前、逃げろ…ゴホッ、死ぬぞ…」
「…」
そんなこと分かっている。この船に乗った時点で、決めていた。大好きな船長が居ない世界など、生きる価値はない。返事の代わりに強く手を握りしめた。
愛しいあなたと水没
(ありがとう、)(といった船長の笑顔は)(私の大好きなあの笑顔だった)
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