しとしとと降り続ける雨は、庭先だけでなく人の心にまで浸水していったらしい。どんよりと重たい空から落ちてくる水滴は妙に落ち着く音色を奏でては、気分を降下させる。いつもは働き者の女中でさえ動きが鈍い気がした。実際はこんな俺に比べたら全然働き者なんだけれど。何となく気分が落ち、やる気が起きないことを理由にただ庭先を眺めている今の俺を見たら、きっと女中だけでなく家臣達も怒りだすことだろう。まだまだ山積みになっている執務を見て、くらりと軽い眩暈がした。
元来、俺は集中力があるほうではないしこんな日には特に筆が止まってしまう。どうしたものか、と大の字に寝転がって天井を眺めてみても何も浮かばなかった。むしろ心地良い眠気が押し寄せてきて、このまま眠ってしまえばという良案が頭を過ぎる。ここ数日はずっと働き詰めで、疲労困憊だったのだから仕方ない。勝手にそう結論付けると、ゆっくりと瞼を閉じた。こうして見ると、案外雨も良いものかもしれない。この湿っぽさは好きになれないが、雨粒が地に落ち跳ねる小さな音が妙に心地よかった。
「殿、こんな所でうたた寝してはお風邪を引きますよ」
「…んー?」
「寝ぼけてないで仕事してください。皆息つく間もなく働いているんですから」
「ええやん、ちょっとだけ」
「ダメです、ただでさえ殿は仕事が遅いんですから」
そう言って彼女は俺を無理矢理叩き起こした。主君の意見はまるで無視か。流石、仕事の鬼と評判なだけある。彼女に天気など関係ないのだろう。俺には大ありなんだけれど。
「ケチ」
「ハイハイ。分かったからしゃきっとしてください」
「…えー」
どこまでも厳しい彼女には俺がただサボりたいだけのように映っているのだろう。それを弁明する気も起きず、何とか俺に仕事をさせようとする彼女を見つめてみる。少し頬を赤くして何ですか、と問われた。
「いや、可愛らしい顔やなーと思て」
「なっ、と、殿!冗談はいいですから仕事してください」
「冗談と違うで、ずっとそう思とったもん」
「と、殿!からかわないでください」
慌てる彼女が何だか新鮮で、す、と頬に手を添えればピタリと動きを止めた。手から彼女の熱が伝わって、少しだけ俺も熱くなる。普段はそこらの男よりも男らしい彼女だけれど、こうして照れているところを見るとやはり女らしい。
「せや、今日は完全に休みにしよ。仕事は明日から頑張るから、なっ?」
「…分かりました。明日、きちんとやってくださいよ?」
「まかせろ」
はあ、とため息をついた彼女から手を離す。ひんやりとした空気が何となく寂しかった。
「では、今日はゆっくりお休みください。私は仕事がありますので、失礼します」
「待て待て待てって!今日は休みにしよって言うたやん」
「はあ、そうですが…もしかして私もですか?」
「当たり前やん、俺一人でおっても暇やし」
「私は暇ではないのですが…」
「そない堅いこと言わんと」
帰ろうとする彼女の腕を掴んで引き止める。真面目な彼女はどうすればいいのか分からないのだろう。困ったように眉を下げる姿が、何だか少し愛しくて彼女の膝に頭を乗せる。
「殿!?」
「ええやん、今日だけ」
更に赤くなって慌てている彼女に笑みがこぼれた。
僕の独占権を君に
貴方を戀うて様
に提出!