「伝令!小早川隊が東軍に寝返り!次いで脇坂隊、朽木隊、小川隊、赤座隊も寝返り大谷隊は壊滅状態!」
伝令の言葉に時が止まった。実際に止まったわけではなく、敵をくい止めていた私の身体が動きを止めてしまったのだ。小早川が寝返ることは兼ねてより察知していたが、まさか他の隊が裏切るなんて、大谷隊が壊滅状態に陥るなんて一体誰が予想しただろう。
「名前危ない!」
ザシュ、と言う音と共に飛び散る血飛沫が視界を染める。私に痛みはないことから、これは私の血ではないらしい。ドサッと倒れたのは東軍の旗を掲げた兵士だった。
「何ぼさっとしてんねん、今死にかけたで自分!」
「行長様…すみません」
「大丈夫か?」
私が停止している間に斬られそうになったところを助けてくれたのは、我が主の行長様だった。いつものにこやかな笑顔はなく、疲れた笑みで私にそう言った。先ほどの伝令に流石の行長様も士気が下がってしまったらしい。それもそうだろう、小早川隊だけならまだしもその周囲の隊まで寝返り更には大谷隊壊滅。そしてそのまま私たちに攻めあがってくる。とてもじゃないが、今の士気がだだ下がりな隊では抑えきれるはずがなかった。こうしている間にも敵が押し寄せてきて、味方の兵が次々に倒れていく。
「行長様、このままでは小西隊は壊滅です!殿だけでもお逃げください!」
「…できひん」
「ダメです!殿は生きなければいけません!退路は確保してあります、私がここで敵を食い止めている間に、早く!」
行長様は少し考える素振りを見せ、やがて頷いた。すでに小西隊は半壊滅状態で、戦うことは難しい。敗走を始めている兵と共に逃げるように勧めれば、行長様は私の腕を掴み自分が乗っている馬へと引き上げた。
「行長様離してください!私はここに残って戦います!」
「あかん、名前も一緒に逃げるんや」
「私は…」
「名前、お願い」
私は殿のためなら命なんて惜しくはないのに。そう続けようとしたのに、行長様の強い瞳に言葉を発することが出来なかった。何も言えないでいると、行長様はやがていつものような明るい笑顔を見せた。私はこの笑みには勝てない。そして馬を走らせ戦場を離脱した。遠ざかっていく兵士たちを見つめながら、行長様にしがみつく。まだ、気づかれてはいないようだった。
「ごめんな…三成」
「…」
きっとまだ戦っているはずの友に、行長様は小さくつぶやいた。微かに震える彼の心境は私などには到底理解できないだろう。
終焉までの逃走劇
神様どうか殿を見捨てないで。不謹慎かもしれないけれど、私は勝ち負けよりも殿が助かればそれでいいの。
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