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たった一夜の過ちを犯しただけだった。
しかし得てしてその過ちは取り返しのつかない事態を招くものだ。
リリーとの中が修復できないまでに壊れてしまった頃、セブルスは自暴自棄になっていた。
憎いポッターの事すら目に入らないほどに闇の魔術に傾倒し、更なる力を求めて闇の世界を垣間見る事となった。
寮の先輩であったルシウスは、先達者としてセブルスに手ほどきしてくれた。彼は傲慢な性格であったが、純血主義者の支配する闇の世界で生きるには重要な存在となった。
そんな彼が気まぐれに贈って寄越した高級チョコレートが全ての発端となる。
元々甘いものを好まないセブルスだったが、貰ってすぐに突き返す訳にもいかず完全に持て余していた。わざわざ捨てられないよう呪いを掛けており、セブルスに食べさせる気しか感じられない。同封された手紙には「意中の人がいるなら、是非二人で食べたまえ。きっと素敵な時が過ごせるだろう」と記されており、セブルスはすぐに燃やしてやろうと考えたがご丁寧に耐火の呪いのかかったそれはヒラヒラと浮かんだままだった。
意中の人、そう言われて頭に浮かんだのはリリーの姿だった。
あれから時が過ぎてもリリーの怒りが冷める事はなく、側を通り過ぎる時横目で見た若草色の瞳には冷たさしか感じられなかった。
それに最近はポッター達が絡んでくることも少なくなった。賢しそうな顔をしてリリーの気を引いているのだろうが、中身はあの腐ったままに違いない。
そう考えていたところに、最悪のものを見てしまった。
ポッターがリリーをホグズミードに誘い、彼女は了承した。
頭で考えるよりも先に、この場から逃げ出そうと体は走り出した。
どこへ向かうかなんて考えてもいなかった。
普段運動しない心臓はすぐに限界を訴えたが、それも無視して走り続けた。
ようやく足を緩めた頃には、天文塔へとたどり着いていた。
星を見るための塔なので、昼間の今は誰もいないはずだった。
早鐘のように鼓動が打っていて、耳が膜を張ったようにぼんやりしている。
「くそっ」
苛立ちに任せて、ローブのポケットからチョコレートの箱を取り出し床に投げた。
何度も悪態をついたところで、気分は全く晴れなかった。
瞳を閉じれば、リリーの少し恥ずかしそうな瞳がはっきりと思い出せた。
あれは恋をしている瞳だ。
そう見た瞬間に理解した。
「何で、くそっ」
あの公園で出会った時から、セブルスはリリーに恋していた。
幼い魔法使いと魔女がマグルの街で出会ったのは運命だとさえ感じた。
二人で笑いあって過ごした日々だけが、セブルスの辛い人生の中で安らぎを与えた。
なのに。
「なんで僕じゃないんだ…」
なぜ、どうして、
僕が混血だから?強くないから?友達もいないような奴だから?