小屋

好き勝手に書き散らす自由帳
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2022/05/12 21:46

降谷さん
相方のネタにガタガタした深夜テンションのたまもの


 昔から負けず嫌いだとか生真面目だとか言われてきた。
 悪口だとは思わなかったし、自分の性分は変えられない。たとえ勉強を頑張って試験に合格して、配属が希望通りじゃなかったとしても。与えられた仕事をひたすらに熟して、飛び回ったり書類とにらめっこしていたりしたら自分のデスクがどんどん人気のない、言ってしまえば少しヤバそうにすら感じるような部署に移っていっても。
 そんな時にふときな臭い研究所なんて見つけてしまって、見て見ぬふりは出来なくてでも第六感とでも言おうか野放しにしては駄目だということも分かって。ちょっと理解と興味があるふりをして情報を集めていたらあれよあれよと中枢に近付きすぎてしまったらしく。

「少し早いが想定内だ。潜れ」

 どうしてこうなった。

***

「梓ちゃーん、直ったわよ」
「やーんさすが仕事が早い! いつもありがとうございます」
「こちらこそぜひこれからも御贔屓に」

 ふぅ、と大してかいてもいない汗を拭えば、この店の看板娘が眩しい笑顔でアイスコーヒーを用意してくれた。彼女とはもう数年来の付き合いだ、遠慮なくいただくことにする。得意先の1つであるここ、ポアロのコーヒーは今日も美味しい。

「やっぱり電気屋さんとかっていつでも来てくれるわけじゃないでしょ。萌さんはすぐ来てくれるし何でも直せるし、ほんと助かっちゃう! いっそここで働きません?」
「ふふ、光栄ですけど接客は本業じゃないからね。人間より機械相手にしてる方が性に合ってるのよ」
「えー、絶対固定客つくのに!」

 明るくはきはきと、そしてちょっとズレたことを言ったりもする梓はその人柄で誰とでも楽しそうに話をする。まさに看板娘の鑑だ。くるくる働く彼女はたまに人手が足りない時もあるのだと零すが、なるほど確かに基本ワンオペなこの店はランチタイムなどは忙しくもなるだろう。
 かと言って転職する気があるかと問われれば答えはノーである。梓も本気の発言では無かったのだろう、萌さんの他のお得意様たちに恨まれちゃいますもんね、と可愛らしく舌を出してすぐに勧誘を諦めた。
 と、ずい、と顔を近付けてきて。

「実は、新しくバイトが入るんです」
「へぇ! よかったわね、と言ってもすぐに梓さんの負担が減るわけじゃないでしょうけど」

 ひそひそ話のように教えられた内容に、萌も合わせて声を小さくして応えた。
 新人が入るというのは、喜ばしいことでもあり大変なことでもある。どこでも言えることだろう。会話のネタにこの話題を広げることにして、どんな人が入るのか訊いてみると。

「それが、私も顔合わせしたんですけど何とも器用そうな人で」
「即戦力ですか? ラッキーですね」
「それで……とんでもないイケメンなんです」

 最重要機密事項を告げるかのような顔でそういう梓に、萌は数瞬固まった。

「……イケメン?」
「えぇ、それはそれはイケてる面でした。どうしましょう萌さん!」
「どうしましょうとは」
「だってイケてる面ですよ!? しかもスマートで優しかった! 絶対世の女性を虜にするタイプですよ、逆恨みとかされたらどうしよう……夜道で刺されそう」
「ぷっ」

 あわあわと震える彼女からは1ミリたりとも色めいたものを感じない。イケメンと働くことになってときめくどころか身の心配をするとは。だからこそ萌は梓のことが好きなのだ。
 思わず吹き出してしまえば恨めしそうに睨まれるが、なんとも微笑ましく思ってしまうことを許してほしい。

「あー、他人事だと思って!」
「はは、すみません。そのバイトさん? はいい人そうなんです?」
「はい、安室さんは物腰柔らかというか、コミュ力の塊というか」
「安室さん?」

 安室さん。思わずその名前を口にすれば、梓はいきなり出た知らない名前に戸惑ったと思ったのだろう、その新しく入るバイトの名前だと教えてくれた。
 とんでもないイケメンの安室さん。どうしよう、心当たりが1つある。
 萌の知るその人は確かに器用で、スマートで誰にでも優しくて、それはそれはイケてる面をしている。世の女性を虜にするタイプかもしれない。
 若干遠い目をした萌には気付かず、如何にその『安室さん』がすごそうな人間なのかを語る梓はふと爆弾を落としてくれた。

「そうそう、もうすぐ初出勤なんですよ」
「……誰が?」
「やだ、安室さん以外いないじゃないですか!」

 でしょうね。
 心中でそう呟くと同時、カラン、とポアロのベルが軽い音をたてる。
 顔を上げた梓に合わせて扉の方を振り返れば、そこにいたのは。

「どうも、本日からお世話になります! ……おや?」

 太陽のような金髪に、海をはめ込んだような瞳。細身にも鍛えられているのが分かる身体に褐色の肌。
 10人いれば20人振り返りそうな美丈夫だ。おまけに人懐こく笑顔を浮かべていたかと思えば、こちらを見た途端きょとんと瞬いてみせた。しかも。

「萌さんじゃないですか! 偶然ですね、僕今日からここでバイトするんですよ」

 誰か、この初対面を装う気が全くないイケメンをどうにかしてほしい。
Category : コナン
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