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好き勝手に書き散らす自由帳
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2022/09/16 20:31

ドクスト1話
初対面(小学一年生)


 女子という生き物は、いつの時代も大抵ませているものである。
 年齢など関係ない。やれ誰それ君がかっこいいだの何先生と結婚したいだの、きゃっきゃとまろい頬をいっぱいに赤らめてはしゃぐ姿はどんなに小さくとも立派な恋する乙女というやつだ。
 僅か片手で数えられる齢にして所謂初恋を経験していく周りを見て、糸生楽は片手を頬っぺたに当てこてんと首を傾げさせた。あらあら困ったのよ、私はまだお子ちゃまなのかしら、と。
 当然保育園児などお子ちゃまであるからして、むしろ両親やその仕事仲間、祖父母といった大人たちにちやほやと可愛がられて育った楽こそこの5歳児の集まりの中では1番のおませさんだったわけだが、生憎とそれを指摘する者はいなかった。

 レンアイよりも音楽が好き。お歌の時間に流れるオルガンの音が綺麗で素敵で仕方なくて、他の子には内緒よと柔らかく笑った担任の先生にこっそり触らせてもらった時から白と黒の鍵盤に魅入られた。
 そんな彼女は1年後に入学した小学校で、隣の席の男の子が気になるだなんて典型的な初恋を迎えることになる。

「いとう……らくちゃん、かな?」
「このみです。いとうこのみ」
「このみちゃんか、ありがとう」

 新しいクラスの初日恒例、出席確認という名の名前確認。この先クラス替えの度に担任とすることになるやりとりの記念すべき1回目を無事終えた楽は、ふと隣から感じた視線に目を向けた。
 自分の1つ前に名前を呼ばれていた男の子だ。白から緑へのグラデーションの綺麗な髪が重力に逆らっており、中々に独特な見た目の持ち主である。

「石神くん?」
「このみっつーのかテメー」
「え、うん」
「担任が『らく』つったってことは漢字は楽しいって書いてこのみか?」
「え、うん」
「ほぉ、音楽、楽しむ、以外にもそんな読み方があったとはな。このむっつー意味もこの字にはあるのか、まぁ楽しむと広義では一緒だな」

 ぺらぺらと喋り出す男の子、石神千空の勢いに若干押されていた楽だが、3秒で我に返った。
 互いの胸に付いている名札はぴかぴかの新入生らしく平仮名だ。今まで漢字の話をしてきた同年代などいただろうか、反語。

「かなでるとも読むのよ」
「なるほどなァ、音楽関係でも広く意味持ってんのか。漢字サマは1つとっても奥深くていらっしゃる」

 いーい名前じゃねぇか。そう笑った千空になんだか楽はとても嬉しくなった。

***

「はい! 30秒なのよ!」
「すげーな楽オメー、人間ストップウォッチか?」
「テンポ60で数えればいいのよ」
「テメーその言い方だと他のBPMでも数えられるって聞こえるが」
「? 数えられるのよ」
「は? まじか? ちなみにどのくらい刻める」
「1単位」
「メトロノームとお友達ってか? 今度実証しろ」

 新学期あるある、親睦を深めましょうの時間。
 クラス全体、はたまた学年全体でオリエンテーションをやることも多々あるが、それと同じくらいよくある『隣の人と仲良くなりましょう』の時間。ぎこちなく自己紹介をしたり、席関係なく騒ぎ出して担任が手を焼いたりしている中、石神糸生ペアはと言えば中々に盛り上がっていた。

「最近興味あることぉ? 凸レンズについてだな。光の屈折について学ぶのにこんなに分かりやすいものも無ェ。手っ取り早く実感するために虫眼鏡で太陽光集めるっつー俺みたいなお子様のためにあるお優しい実験するつもりだが、楽も来るか?」
「なにそれ楽しそう」
「ちーっとだけだが発火するから楽しいぞ」
「なにそれ楽しそう!」

 自己紹介、時間当てクイズと、担任の手も煩わせずお利口に決められたテンプレートを熟しきっちりと親睦を深めている2人は、この教室の中で中々に優等生だった。話している内容は微笑ましかったり微笑ましくなかったりするのだが、それに大人が気付くこともなく。

「放課後河原な」
「電子メトロノーム持ってくのよ」
「クックック丁度いい。ついでに人間メトロノーム様に発火までの時間計ってもらうとするか」

 石神千空と糸生楽。
 この先何千年も続く付き合いをすることになる2人の縁はこうして結ばれた。




20220916
Category : ドクスト
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