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好き勝手に書き散らす自由帳
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2020/06/25 20:23

無邪気で無垢で、
無神経
そのいち



 シェイラには、きっとこれは誰にも言わない方がいいのだろうと心にしまってきた事がある。

 ――『ジャミルは本当に凄いな!』

 幼い頃、ふと耳に入ったその言葉。
 それはどこまでも真っ直ぐで純粋で、シェイラにはきらきらした宝物のように思えた。
 先程、誰にも言わない方がと表現したが、まぁ言ってしまえばジャミルには言わない方がいいだろう事。今から十年くらい前、初めてシェイラが存在を認識したのはジャミルよりもカリムが先だった。
 その頃のシェイラといえば、自分の一族では目立つ子供は殺されるか望まぬ教育を叩きこまれるか、少なくとも嫌な思いをするということを察し、息を潜めて生きることが染み付きはじめた時期だ。試験の一番もかけっこの一番もシェイラはいらない(元々足はそんなに速くはなかったのだが)。
 可もなく不可もなく。いや、出来ればちょっと可が多いくらいがいい。そんな生き方を身に付けた彼女にとって、称賛は縁の無いものだった。
 縁は無かったし、欲しいとも思わない。シェイラには死へのカウントダウンにしか聞こえない。
 ただ賢い彼女は自分の一族が特殊だということを十分に理解していたので、普通は褒められたら嬉しいものだと知っていた。人間誰しも承認欲求はあるものだ、幼い子供なら尚更。シェイラのそれは押さえつけてぎゅうぎゅうにして蓋をしてしまったけれど。

 こんなにも綺麗な言葉を口にするのはどんな人だろう。シェイラを突き動かしたのはそんなちっちゃな興味だった。
 褒めるよりも褒められたい年頃に、素直に他人を称賛する言葉。それを発していたのは幼いカリムで、少し見ていればすぐにそれを受けている幼いジャミルが目につくようになった。
 ジャミルは凄い。ジャミルはなんでも出来る。カリムは自分のことのようにジャミルのことを自慢する。そこには嫉妬の欠片もなく、ただただ純粋な褒め言葉であることがカリムの表情や声色からこれでもかと伝わってくる。
Category : ツイステ
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