小屋
好き勝手に書き散らす自由帳
(←戻る)2020/06/28 20:10
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前回、下書き保存してたものの存在をすっかり忘れていた故に数字がずれていたのを修正しました。
客足が途絶え、せかせかと雑務を熟しているアニーを横目にラギーが老婦人と談笑をしているとき、その男は訪れた。
仕立てのいい服に身を包んでいる姿からそれなりの身分なのだろう。ぴくりと動いた耳が見えたのかは分からないが、老婦人が小さな声でここら一帯の地主の息子なのよと教えてくれる。すれ違う町人とにこやかに挨拶を交わす様子を見るに人格破綻者というわけではなさそうだ。
「ラギーくん」
「はいはい了解ッス」
アニーに呼ばれたラギーは、にこにこと微笑む老婦人に手を振ると彼女のもとへと駆け寄る。まぁそうだろうなとは思っていたが、呼ばれたということはそういうことだったわけだ。
――『今日一日彼氏になってほしいの。報酬はちゃんと払うから』
最初そう言われたときは脳がしばらくショートしたものだが(だってラギーにとっては得しかない)、聞くところによるとこの男が中々に悩みの種となっているらしい。
なんでも人当たりのいいこの男、好青年としてここらの主婦層には一定の人気をもっているそうなのだが、長年ずっと続いていたさりげないアプローチが最近強くなってきているのだそうだ。アニーが気付くくらいなのだから実際はさりげなくなどないのだろうとラギーは思っている。
直接的な何かがあるわけではなく、金も落としてくれるし、なによりこの地はアニーにとって大事な商売ルートの一つ。しかし男からの(アニーいわく)さりげない熱視線と周囲の生温かい空気がどうにもやりにくい。そこで波風たてることなく解決するために今回ラギーが呼ばれたというわけだ。
(最初はアズールくんあたりの悪巧みかと思ったけど)
なにせ、夕食の仕込みを手伝うくらいじゃ報酬にならないからとしっかりマドルを支払われ、合法的にアニーの彼氏面を出来るときた。世の中ギブアンドテイクの時代にこんな美味しい話が転がっているわけがない。
事情を聞いて、なるほどそういうことかと納得すると同時に少しばかり萎んだ気持ちは、今までずっと我慢してたんだけどラギーくんになら頼めると思って、という言葉で単純に浮上した。
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