小屋

好き勝手に書き散らす自由帳
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2020/09/02 21:18

新コナン一話
錯綜コントラストを作り直して新しい連載を書くと言ったな、あれは嘘だ。
とりあえずここに投げます。気力があるときにページつくる


「……でしょう、だから……」


 まずいな、と降谷は思った。
 血を流し過ぎた身体は鉛のように重く、早くこの場を去らねばとは思うものの意に反して腕にすら力が入らない。
 表通りからそこそこ外れているこの道は普段なら辛うじて視界が確保されるくらいの薄暗さだが、その光源である申し訳程度に立っている唯一の街灯が切れているせいで余程の事情がなければ避けて通りたくなるような暗闇が広がっている。だからこそ咄嗟の身の隠し場所に選んだのだが。
 そこに聞こえてきた人の声。一般人か否か、どちらにしても見つかるわけにはいかない。が、前述の通り彼の身体は完全にコントロールが効かない状態で、妙に冴えている頭だけが冷静に耳へと入る音を分析する。


「あんの脳内お花畑野郎いつか絶対合法的に存在をデリートしてやります。法律と私の理性に感謝しやがれです」


 とりあえず口が悪い。
 コツコツとした足音は随分と軽く、華奢な女性であることが窺える。少し早足なそれは一人分であることから、電話でもしながら歩いているのだろうか。
 ぶつぶつと穏やかではないことを延々呟いているその声はまさに鈴を転がすようなといったもので、聞こえてくる音情報を総合するに可愛らしい女性なのだろう。言っていることは全く可愛くないが。
 現実逃避のように分析を続けている間にもその存在はどんどんこちらへと近付いてくる。


「え? いえ、大丈夫ですよ。いつもの道まで来てますから待っててください。ほんと兄さんは心配性ですね」


 こつり、足音が一瞬止まった。
 こちらの気配を向こうも感じたのだろうか。しかしすぐ再開した足音は変わらず向かって来るので、この道を通らなければ目的地には着けないのかもしれない。
 そして一つ気になることは、この静かな空間で電話口の声が全く漏れ聞こえてこないことだ。そりゃ相手の声量や声質によっては聞こえないこともあるだろうが、気味悪いほど暗いここは耳が痛くなるほど静かなのだ。まず女性が一人で歩くような場所ではない。
 もしかして防犯対策で通話のふりをしているのだろうか。この道を通らなければならないみたいだし。そんなことを考えている間にも足音の主はとうとう互いの存在を確実に認識できる距離にまで近付いていて。
 思考に闇が拡がってくるかのような感覚。本格的に血を流し過ぎた。まずい。


「……ところで兄さん、我が家ってペット禁止でしたっけ?」


 意識が落ちる直前に聞こえたのは、そんな緊張感の欠片も無い台詞だった。


***


 片手に携帯を持ったまま、暫し澪は考えた。
 咄嗟に零れた、我ながらどうかと思うペット発言に応えは無い。当然だ、携帯の画面は暗いままどことも通話などしていないのだから。逆に返事が返ってきたら怖いくらいである。
 数週間前からこの道の街灯が完全に切れたのを機に、イマジナリー兄との通話を澪は毎日続けていた。虚しくないかと言われれば完全に否とは言えないが、己の身を守れるのは己のみなのだ。家に帰るためにはこの道を通らなければならない以上仕方がない。ちなみに彼女に兄弟はいない。
 せっかくなので毎日のストレスを少しばかり、そうほんの少しばかり言葉として吐き出してみたりしているのだが、そんなに楽しくないことには初日に気付いた。職場や個人を特定されないよう気を遣いながら吐く愚痴ほど面白くないものもない。他に喋ることもないので続けているけれど。
 少し話が逸れた、元に戻そう。澪の前には意識を失っているのであろう人間が一人座り込んでいる。場所も相まって不審さマックスだ。
 なにより問題なのは血の臭いがすること。それもちょっとやそっとの怪我ではない、日常では流すことのない量だ。でなければここまで臭わない。
 こんなところで、事件性しか感じない状態で、座り込んでいる人が一人。ぴくりとも動かないところを見ると正直生きているのかどうかも分からない。等身大のマネキンと言われても不思議ではない、ただしどんどん濃くなる血の臭いが無ければの話だが。


「……」


 こつ、こつ。
 真ん前を通り過ぎても人影は全く動かない。そこまで広くも無い道で、分かったのは大柄な体格だろうことくらいだ。あくまでも平均より大分華奢な澪と比べて、だが。
 情けは人の為ならず、触らぬ神に崇りなし。さて、この犯罪都市米花町ではどちらの選択肢が正解だろうか。
Category : コナン
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