小屋

好き勝手に書き散らす自由帳
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2020/09/23 20:44

籠鳥雲を恋う
トラッポラ誕生日おめでとう
愛と願望と砂糖(当社比)を詰め込んだけど夢だから許されるんだ


数えるのは少し前に止めた、とある夜空の散歩道。
厚着をしていても今の時期、空の上ともなれば中々に肌を刺すものがあるが、後ろからすっぽりと抱えられれば随分とそれも和らいでくれる。
冷たい風に容赦なく曝されている耳たぶはかなり冷たい。けれどゴウゴウと空気の動きがうるさく自然と互いの話し声が大きくなるここで、耳当てをするだなんて気にはならなかった。

「ハルカも随分と慣れたよなー。最初の頃はガッチガチだったくせに」
「おかげさまでー。お礼に後ろ乗ろうか?男のロマンなんでしょ?」
「……遠慮しとくしお前余所でそーいうコト軽率に言うなよマジで……」

盛大な溜め息を零してくれるエースだが、初めてこうして箒に乗せてくれたときに「男のロマン……!いやでも万が一動揺して落ちたらどうするよオレ……!!」と葛藤していたのを陽花は覚えている。彼の中で随分な討論が行われた結果今の形になったのだ。

「てゆーかー、ぶっちゃけ普通にこの体制もロマンだから。夢詰まってっから。ちっこいしいい匂いするし」
「男子高校生こわ……」

薄らと雲がかかっているものの、散らばる光たちを大きく邪魔する程ではない。見渡せば上にも下にもきらきらとした輝きが広がる光景を前にしたら、高い所への苦手意識なんかちっぽけなものだった。そもそも箒で空を飛ぶということこそが、エースの言葉を借りるなら陽花にとってのロマンだ。
今では飛ぶ姿もそれなりに様になっている。最も魔力を持たない陽花一人で飛べる筈もなく、グリムと一緒なら、ではあるが。
それもこれも、飛行術の授業を前に好奇心と苦手意識の間で揺れていた陽花を空へと連れ出してくれたエースのおかげだ。思えば彼は最初からなんだかんだと面倒見がよかった。口はときどき悪いけれど。

「そーいえばさー」
「んー?」
「昼にごちゃごちゃした記号?ノートに書いてたじゃん。あれなに?なんか呪文でも勉強してんの?」
「呪文……?あ、漢字?」
「カンジ?」

様々な国出身の生徒が集まるここナイトレイブンカレッジで、不自由なく意思疎通できる原理を陽花は知らない。誰も疑問に思っていないところを見るにこの世界ではそういうものなのだろう。
ただ、意味のある文章や単語ならともかく、思いつくままに書き並べた漢字はどうやら翻訳されることなくそのままエースの目に映ったらしい。普段ノートに何気なく紛れ込んでいる漢字たちは問題なく伝わるのになんとも不思議なものである。
ひらがな、カタカナ、漢字。英語もそこそこに馴染んでいるし、意識してみると日本人すごいな。と改めてエースに説明しながら思う。
自分もそんなに詳しくないし、エースもそこまで興味あるわけじゃないだろうし、とざっくり故郷の言語を説明してみたところで、返ってきたのはやはりというか「ふーん」の一言。かと思えば、意外にも彼は話題を掘り下げてきた。

「じゃあさ、ハルカの名前もその漢字っての使われてんの?」
「使われてるよ。ハルが太陽で、カが花。いいでしょ?」
「へぇ、随分お洒落じゃん」

相槌をうつエースの声が、からかうような台詞とは裏腹になんだか優しかったから。
なんとなく陽花はそのまま話を進めることにした。きっと彼なら聞いてくれるだろう。

「私、姉と兄が二人ずついるんだけどね。姉たちが父の、兄たちが母の連れ子なの。だから最初どうにもぎくっとしゃくっとしてたらしくて」
「え、急に重たい話?」
「いや別に。そんな中生まれた私が可愛くて可愛くて、気付けば気まずさも無くなってたんだって。だからこの子はみんなの太陽だっていってつけてくれたの。いい話でしょ」
「普通にめちゃくちゃいい話じゃん」

こちらに来て毎日が慌ただしい。
友達ができた。頼もしい先輩も。魔法はわくわくするし、知らないことを学ぶのは面白い。唯一無二の相棒グリムは憎めなくて可愛い奴で。
騒がしくて、賑やかで。夜なんてあっという間に過ぎ去っていく。

「んー、じゃあやっぱ寂しいな」

けれど。そう、寂しい。
エースの言葉に責める色が無かったことに陽花はどこかほっとした。
毎日楽しい。本音だ。けれど家族のことを忘れることはなくて。

「……んー。ちゃんと生きてるよって手紙だけでも送れたらいいなぁ。私は大丈夫だよって。危ない目に遭ってないかとかきっと心配してくれてるから」
「いや危ない目には遭ってるだろ」
「あっはっは!そうだね」

人間、生きていれば出会いも別れもある。突然の別れだってあるし、家族だってずっと一緒にいるわけじゃない。分かっている。
だけど、これはまた違うじゃないか、だなんて。そんなこと言えなくて、考えてはいけないような気がして、我慢出来ずに溢れそうなときはグリムを抱きしめた。

「別に書いたらいーじゃん。ハルカだって気付いたらこっち来てたんだろ、手紙が向こうに行く可能性だってゼロじゃないんじゃね?」
「エースがいいこと言ってる」
「オレはいつだっていいことしか言わねえっつの」
「あはは」
「急に棒読みになるじゃん」

なんとなく許されたような気になって、泣きそうなのを隠すように茶化した言葉で誤魔化した。

「ありがとね」
「別にー。お前レターセットとか持ってんの?お小遣いやろうか?」
「照れなくてもいいのに」
「うっっせ!!照れてねーし!」

手紙を書こう。綺麗な便箋と、可愛い色のペンと、そして鍵のついた箱を買って。

(……『ハルカ』が向こうに行く確率はゼロでいいんだけど、って言えないオレやさしー)

星空が綺麗で、背中は温かくて、流れる空気は澄んでいて。
後ろでエースが浮かべていた表情を陽花は知らない。
Category : ツイステ
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