小屋

好き勝手に書き散らす自由帳
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2020/10/24 17:26

葉月に咲く花
赤井秀一
錯綜コントラスト設定、軽率なそしかい後設定if
赤井さんは登場人物ですが相手ではありませんし管理人は降谷さん過激派なので色々と察してください

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

店先でこちらを見たまま微動だにしない男に対して、そう言って笑った真詞の声はどこまでも穏やかだった。
少し長い上り坂の終わりがけにある花屋。閑静な住宅街にぽつんと建つこの店は駅前にあるもの程の賑わいこそ無いものの、小さなブーケ目当ての大学生や記念日にと寄るサラリーマン、不思議と客足は途切れず繁盛している。こうして真詞がアルバイト出来るくらいには。
近くには墓地があり、仏花を買っていく者も多い。口数の少ない店主は昔は公務員だったのだとだけ聞いた。たまにスーツ姿の男たちが寄っていくことがある、まぁそういうことなのだろう。詳しいことは知らないし、無理に知ろうとも真詞は思わない。

「身体はもういいのか」
「お花をお探しでは?」
「君と話がしたかった」
「そうですか。生憎今は仕事中でして」

あくまでも穏やかな調子を崩さず、やんわりと目の前の男から視線を外した。
赤井秀一。この男と真詞の間に直接の関係はそんなに無い。組織にいた頃に顔を合わせたのは数える程度だし、少し前にあったそこそこ大きなとある作戦の際にも直接言葉を交わした覚えはない。
強いて言えば降谷がこの男を心底嫌っていることが印象に残っているくらいだ。そう、二人の関係はその程度だった。端から見る分には。

大くん。
優しい笑顔でそう呼ぶきらきらした言葉が、真詞の脳裏から離れない。

「君は、明美と仲が良かったんだな」
「えぇ、彼女は私にとってかけがえのない友人です。それがなにか?」

宮野明美。赤井が組織に潜入する際のハニトラ相手であり、赤井がノックだとバレて組織に殺された女。
言葉にしてしまえばそれだけの存在だ。物語でいえば端っこも端っこにいるような、ちっぽけな登場人物だろう。実際明美は組織にいる間も構成員としては下っ端もいいところだった。
それでも、真詞にとっては違った。明美は真詞のことを何も知らなかった。歳も、生い立ちも、本名さえも。カルーアというコードネームしか知らず、それでも無邪気な笑顔をいつでも向けてくれた。
友人だった。姉妹のようにすら思っていた。

だが、それが何だというのだろう。

「私と明美は友人です。それが貴方に関係ありますか?」

にこりと、控えめに穏やかに微笑んだ真詞の言葉に、赤井は何も口にすることは無かった。
からりとガラスを開ければひんやりとした空気が流れてくる。外では蝉が精一杯の鳴き声をあげており、青い空に白い雲のコントラストは夏という絵画を切り取ったかのようだ。
幾本かの花を取り出した真詞は、慣れた手付きでラッピングを施すと丁寧にリボンを結びそれを赤井へと差し出した。戸惑いながらも受け取った赤井の手の中で鮮やかな紫色が束になっている。

「大きな仕事が一段落ついたのでしょう。お疲れ様でした」
「これは」
「私からの餞別です。花言葉は栄光、貴方にぴったりでしょう?」

では、私はまだ仕事がありますので。背を向けた真詞が振り返ることはない。
生憎と花言葉にはあまり詳しくない。根に猛毒のあるこの花にそんな明るい花言葉があるとは知らなかったな、そんな事を思いながら花束を片手に赤井は店を後にした。
Category : その他
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