小屋

好き勝手に書き散らす自由帳
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2020/11/26 20:01

無題
原作軸1


針に糸を通すように、指先から呪力を丁寧に丁寧に紡いでいく。今日持ち込まれた一級呪物は全部で五つ。既に四つは解呪済で封印に使われていた札だけが机の上に折り重なっていた。
 残りの一つを手に持ち、封印を解かないよう、祓除するための道を探す。慎重に、慎重に。呪いの形を紐解いて解析して、少しずつ呪力を進めていって。やがて隅々まで幸の呪力が行き渡り呪いの気配が消え去ると、五枚目の札が机上に落ちると同時に背後からノックの音が響いた。


「おつかれサマンサー。終わった?」
「サマンサー。あとは札を燃やせば終わり。なにかあった?」


 集中故に止めていた息を吐きだして振り返ると、開けた扉に寄りかかっている五条の姿があった。いつ扉を開けたのだろう、気付かなかった。
 今のように呪物を相手取っている間、幸は携帯を切っている。万が一集中を途切れさせた場合に何か起こったら困るからだ。それを知っているからこそ五条も声をかけることなく待っていたのだ、最も音もなく扉を開けたのは気遣いというよりも悪戯心だろうが。


「やー、それが急に仙台まで出張入っちゃって。今日食べようって言ってた餃子とっといてってお願いしに来た。あとついでに新幹線とってもらおうと思って」
「了解。仙台って恵行ってなかったっけ」
「そ! 特級呪物回収にね。なんかある筈の場所に無かったらしくてさー」
「なにそれウケるね」
「ね。ウケるねって言ったら殴るって怒られちゃった」
「じゃぁ私は言わないでおこう」


 餃子というのは、先週二人でパソコンを覗き込みながらあれこれ吟味してお取り寄せしたものだ。「味噌だれってどうなの今流行りは酢に胡椒でしょ」「私は王道の醤油酢ラー油が好き」「新しい道開いちゃう? 開いちゃう??」と今夜食べるのをそれは楽しみにしていた。まぁ任務ならば仕方ない、先に一人で食べてしまおうとは思わない。美味しいものは二人で食べるから美味しいのだ。
幸の上着に入っていたライターで札を焼き始める五条の傍ら、携帯の電源を入れてさくさく新幹線のチケットを手配する。ついでに経費で落とす手続きも。こういった細かい作業を五条は面倒くさがる。


「別に恵に任せとけばいいと思うんだけど。僕が出しゃばっても育たないしね」
「本音は?」
「めんどくさいから行きたくないけど上が五月蠅いからちょっと観光してくる!」


 いい笑顔で(と言っても目は隠されているが)親指を立てる五条。そんなことを言っているから七海に尊敬していないだなんて言われるのだろう。誰もが認める最強である五条はしかし、人望は少しばかり、いやそこそこに足りていない。
 無事とれた新幹線の詳細を送った画面を見ているのかいないのか。喜久福買ってくるからね、とご機嫌に出て行った背中からは特に気負いは感じなかった。それも当たり前である、だって彼は最強だから。五条が向かうならば全ての任務は解決したも同然だ。
 きっとそう遅くならずに帰ってきて、半分減ったお土産を渡されるのだろう。彼はかなりの甘党だ、それこそコーヒーを飲もうものならコーヒー味の砂糖じゃないかと言いたくなるものを嗜んでいるくらいには。新幹線の中で喜久福を我慢出来るとは思わない。寧ろ自分が食べるように一箱買っているかもしれない。
 あり得るな、と幸は小さく笑った。伏黒も帰ってきたら餃子パーティーに招待しよう。怪我が無いといいけれど。
Category : 呪術
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