小屋
好き勝手に書き散らす自由帳
(←戻る)2020/11/29 20:39
無題
原作軸2
『やっほー。無事解決したよ、ちょっとまだ帰れないけど』
「サマンサー。恵怪我してるの?」
『まぁ死にはしないよ。それよりさ、今すぐこっち来てくれない?』
「うん?」
予想通りその日のうちに連絡がきた。流石最強の名は伊達ではない。
まだ帰れないとの言葉に伏黒が重傷を負ったのかとも思ったがそうではないらしい。五条の口ぶりから察するに命に別状はないのだろう。多分。さすがにそれ程重傷ならもっと切羽詰まっている筈。多分。きっと。
例え伏黒の怪我が酷いとしても五条も幸も自分以外を反転術式で治療することは出来ないのだが。今呪術高専内で唯一それを出来る家入は、定時だ定時だーと随分前に片手をひらひらしながら帰っていった。彼女曰く普段定時もクソもない職場で馬車馬してやってるんだから帰れる時は気持ちよく帰るのだとか。なるほど正論である。
しかし、それなら何があったというのだろう。首を捻ると、電話口からそれはそれはご機嫌な声が続いた。
『いやー、すんごく面白いことになっててさ! ちょっと手伝ってよ』
本当に楽しそうなその声に幸は思わず笑みを零した。
五条悟という人間は、軽薄で自己中心で我儘で。周りの評価はこんなところだろうか。あと最強。確かにそれは間違っていなくて、彼はいつだって自分の思うように生きていて。
でもそれは色々な経験をして色々なことを飲み込んで、その上でこう生きると五条が決めたのだと幸は知っている。そこには彼の信念があるのだ。いやまぁ確かにただ我儘なだけの時もあるのだけれど。たまには。そこそこ。
大人のしがらみの中で子供のように自由に生きる五条。人のことを全く考えていないようで誰よりも周りのことを見ていたり、やっぱり考えていなかったり。
そんな彼が無邪気に誘いをかけてくるものだから。幸の中で答えなんて一つしかなくて。
「いーよ。身一つで新幹線飛び乗ってあげる」
『さっすが幸ちゃんイイ女〜』
鞄を引っ付かんで笑った幸の言葉に上機嫌な口笛が返ってきた。
『そんなイイ女にもう一つ頼みがあるんだけど』
***
「で、面白いことって?」
身一つの言葉通り高専を出たそのまま切符をとり、東京駅で丁度発車間際だった新幹線に飛び乗ったところで客室には向かわずデッキで電話をかける。呪術高専は中々に辺鄙な場所にあるのでここまででそれなりの時間を使ってしまっていたが、ロス無く新幹線に乗れたのは幸いだった。呪力をぶん回し身体強化して全力疾走したかいがあるというものだ。
仙台まで一時間半。どうせなら事情を聞いておいた方が後の動きがスムーズだろうというのが建前半分、好奇心が本音半分。
五条はすぐに電話に出た。彼の口から出てきた言葉は。
『特級呪物が受肉しちゃった!』
「……マジ?」
『マジ』
少なくとも音符マークが付きそうな声で言うことではないのだが。話を聞くに、今回伏黒が回収しに行っていた特級呪物が一般人の手に渡っており、なんやかんやあってその一般人が呪物を飲み込んでトラブルが解決したと。
そもそも特級呪物が人目に触れているところから問題だし、伏黒はさぞかし大変だったことだろう。餃子パーティーには必ず呼ぼうと幸の中で決定した。
特級呪物、両面宿儺の指。全部で二十存在するこの呪物は呪術高専でもいくつか所有しているが、解析・解呪に長けている幸でも手が出ない程には厄介な代物である。
宿儺の指に惹かれた呪いがそれを取り込み力を付けてしまうと二級呪術師程度では手も足も出なくなってしまう。まさにそんな事態に陥りかけたとき、その居合わせた一般人が宿儺の指を飲み込んで受肉し解決したと。
普通は特級呪物など口にしたら一瞬で死ぬ。万が一死ななかったとしても宿儺に自我を奪われて終わりだというのに、その虎杖という人物は自我を保つことにも成功したらしい。千年生まれてこなかった器の素質を持った少年ということだ。
まぁ、例えそれだけ稀少な存在で、伏黒を助けてくれた人物とはいえ。いつ宿儺に自我を奪われるかも分からない。五条曰く腐ったみかんのバーゲンセールである“上”はきっと彼の死刑を即決するだろうけれど。
『恵がね、悠仁を殺したくないからどうにかしてくれ、ってさ』
「なにそれ可愛い」
『でっしょ!? こりゃもう僕ら大人が一肌も二肌も脱ぐしかないでしょ〜』
「だから私に指持ってきてくれって言ったのね」
『幸ちゃんにしかこんなこと頼めないからね。ダイジョーブ、ちゃんと事後承諾はとったよ』
幸の得意分野は術式や呪物の解析。それ故に呪術高専に保管されている呪物は幸の管理下にある。だからと言って無断で持ち出していい訳など勿論ないのだが、誰にも気付かれることなく持ち出すことは容易い。
どうせ器の素質があるのだから、全ての指を取り込ませてから殺せばいい。五条はそう進言したのだそうだ。利用出来るだけ利用すればいい、なるほど上が喜びそうな言い方である。
『でね、今悠仁は気絶させてるんだけど。起きたとき自我保ってるか分かんないしそこそこに封印しときたいんだよね。幸にはその手伝いと恵の世話お願いしたいんだ、もう病院も閉まっててさ』
「了解。24時間営業のドラッグストアとかある?」
『駅前にあったよ』
「じゃあ恵に怪我の詳細メールしてって言っといて。あと一時間くらいで仙台着くから」
虎杖悠仁。両面宿儺の指を取り込んだ一般人。いや、元一般人と言うべきか。五条も伏黒も虎杖をえらく気に入っているらしい。一体どんな人物なのだろう。
とりあえず伏黒に会ったら撫でくりまわそう。怪我に響かない程度に。そう決めて幸はようやく席を確保するべく客室への扉を開けた。
prev / next