「桐絵ちゃーんただいまぁ」
「希子!?」
約束通り訪れた玉狛で、心底驚いたといった顔をしている小南にあれ?と首を傾げるものの、後ろで無表情のまま親指を立てている烏丸を見るにわざと連絡しなかったのだろう。この男は本当にお茶目さんである。
まぁいいや、と希子は床を蹴って小南へと飛びついた。突然のことでもしっかりと受け止めてくれる細い腕が嬉しくて頬がゆるゆると緩む。
ただ、細い腕といっても侮るなかれ。この小南桐絵という女子高生、可愛い見た目とは裏腹に属性は斧だ。黙っていれば可愛いのにだなんて生温いものではない。油断しているとすぐさま真っ二つにぶった切られる。
「あんた、帰ってくるなら帰ってくるって言いなさいよ!」
「とりまるに言ったよ」
「とりまる!」
「何回電話しても通話中だったんすよ」
「えっ嘘!?今日誰とも電話してないのに!?」
「まぁ嘘ですからね」
雑な嘘をつく烏丸も、それにすぐ騙される小南も相変わらずだ。希子に勉強を叩き込んでくれた小南は、成績はいい筈なのに変なところで人を疑わず素直に騙されてしまう。
烏丸につっかかっていく小南の腰に引っ付いたままぎゃーぎゃーと一方的な口論をする二人を眺めていると、階段の上から新たな声がかかった。
「おっ来たな希子。お帰り」
「迅さん。ただいまー」
穏やかな笑みを浮かべながら降りてきた人物に向かって走ると、ちょっと困ったような顔をした迅はそれでも避けることなく希子のことを受け入れてくれた。
さっきまで小南にしていたようにぎゅっと抱き着くと宥めるように頭を撫でられる。拒絶されないのをいいことに希子は腕の力を強めた。
「希子ー、いつも言ってるだろ。おれ男、おまえ女の子」
「結局甘やかす迅が悪いのよ」
「なんだかんだ満更じゃなさそうですもんね」
「はは、酷い言われよう」
そう、未来視を持っている迅なら避けるのなんて簡単な筈なのに、なんだかんだいつも受け入れてくれるのだ。さっきみたいに少し困った顔はするけれど。
女の子が軽率に男の人に触れに行ってはいけない。迅から教わったことの一つ。社会常識というやつだ。男女というものは難しい。
「ちゃんと分かってるよ、迅さん以外にはしないもん。……あ、太刀川さんと公平はノーカンね」
「うっわ上げて落とされた。なにこの子。いつからこんな小悪魔になっちゃったの」
「一番は迅さんだよ」
「あーもう可愛いやつめ!」
わしゃわしゃと髪を掻き回されるも悪い気はしない。迅とのスキンシップをひとしきり堪能していると、そんなことより、と小南が呆れたような声を出した。
「希子、あんた夕飯まだでしょ?食べるわよね?」
「うん、今日は桐絵ちゃんが宇宙一のカレー作ってくれるんでしょ?」
「当然!期待してなさい。出来上がるまでまだ時間あるけど」
「とりまるにノート写させてもらうの。こないだ任務だったときの」
「お、いいねぇ。勉学に励め若人ー」
「迅さん年寄くさいすよ」
机にノートを広げると迅と烏丸もソファへ腰を下ろし、キッチンの小南とともに談笑が続く。
本部でも構ってくれる人はたくさんいて賑やかだが、こうしてリビングでわいわいやっている空気はなんというかほっこりして希子のお気に入りだ。
太刀川隊の隊室の雰囲気も勿論気に入っているけれど。どちらも落ち着くことに変わりない。
甲乙つけ難いとはこの事ですな、と希子は内心で笑った。
「ねぇ、陽太郎は?この時間にいないの珍しいね」
「ボスにくっついて本部行ってるわ。もうすぐ帰ってくるんじゃない?」
「希子の顔みたら喜ぶぞ。あいつ最近うるさかったからな」
「ふふ、可愛いやつめ」
「お、さっそく学んだな」
先ほどの迅の言葉を真似る。ここ玉狛支部のお子さま隊員こと陽太郎が会いたがってくれていることは素直に嬉しい。
「そういえばね、今日公平に賢くなったって褒められたんだよ」
「ちょ、そういうのやめて。泣きそう」
20200410