隊室のソファに寝転がり、国近が置いて行った雑誌を眺める。
若者向けのそれにはファッションからデートスポットまでキラキラした情報が詰め込まれていた。それらを半分くらい流し読みしながら一定の速度でページを捲っていく。
が、とあるページで希子の指が止まった。そんな彼女の様子に、課題に向き合ってはいたものの既に手が止まっていた出水も共に雑誌を覗き込む。


「水族館?」
「うん」
「お、プラネタリウムも上にあんじゃん。お前好きそうだなー」


出水の言葉通り、希子の目が留まったのはデートスポット特集のとあるページ。新しくオープンした水族館とプラネタリウムが併設された施設だった。
どちらも女性には人気そうなスポットだ。例に漏れず希子もまた興味をひかれたらしい。右上から左下へと一定の動きをしていた視線が文面を追うものに変わる。
希子に倣い出水も見出しだけでなく細かい文字を読んでみると、そこまで遠くない場所のようだった。電車で20分といったところだろうか。


「行くか?」
「公平付き合ってくれる?」
「いーぜ」
「やった」


出水の言葉に希子の足がぱたぱたと揺れた。素直な反応に思わず頬が緩む。
そのまま次の休みがいつだとか近くのカフェがどうだとか話し始めた2人に、向かいのソファで携帯を弄っていた太刀川がだあぁ!と叫びながら起き上がった。


「どうしたんスか太刀川さん」
「お前らの青春パワーが俺には眩しいんだよ!この高校生共が!ちょっとは労われ!」
「え、太刀川さんも行きたいんです?」
「高校生のデート邪魔するとか野暮ですよ」
「無邪気って時に罪だよな…」


再びソファに撃沈した太刀川を出水と希子2人でケラケラ笑う。少なくとも無邪気とは言えないだろう光景だ。
再び静かになった隊室の中で不貞腐れたように携帯を弄っていた太刀川だが、やっていたゲームが行き詰って希子に助けを求めた。応えた彼女が雑誌を手放して携帯片手に太刀川の隣へ移動する。
それを見てとうとう課題を閉じた出水が2人の座るソファの後ろへと回り込んで携帯の画面を覗いた。3人寄ればなんとやら、あーでもないこーでもないと言い合いながら頭を突き合わせる姿は傍から見れば微笑ましい。3人の力を合わせても今ここにはいない国近に及ばないところが残念だが。
画面を睨みつけて10分。漸く現れたクリア画面に、思わず立ち上がった3人は満面の笑みでハイタッチを交わす。


「あ、柚宇さんから呼び出し。ちょっと行ってきまーす」
「おーいってら」
「おう」


短く震えた己の携帯を見て、希子は足取り軽く隊室を出て行った。それにひらりと手を振って見送った男2人が隊室に残される。
ぱたん。扉が閉まり足音が遠ざかったのを聞いて、神妙に口を開いた太刀川に向かいのソファへ戻ろうとしていた出水は呼び止められた。


「…ところで出水」
「はい?」
「まだお泊まりデートなんて太刀川さん許さないからな」


ぽかん、と。
そんな効果音がぴったりだろう。動きを止めた出水に対し、しかし太刀川の顔は至って真剣で。いや、真剣というには少し遠いが、それでも100%冗談というわけでもなさそうだ。わざわざ希子がいなくなってから言ってきたわけなのだし。
と、いうか。この人は希子の父親か何かかよ。
そんな内心を飲み込んで、あー、と後ろ首を掻いた出水は言葉を選ぶ。


「いくら希子相手でも、付き合ってもないのに泊まる程考えなしじゃないです」
「え、お前らやっぱ付き合ってないの?隠してるとかじゃなくて?」
「まぁ今んとこ」
「へー…」
「何すかその顔」
「いや。まぁ姫に関して俺はお前を信頼してるから」
「父親かよ」


一度は飲み込んだ言葉が今度はするりと出てしまった。しかし太刀川は気にした風も無く、太刀川隊の可愛い末っ子だしなぁなんて言っている。
唯我の入隊により末っ子は希子じゃなくなったんじゃないかと問えば、奴は可愛くないから却下だと返ってきた。相変わらず地味に扱いが酷い。
唯我がこの場にいればまた人権がどうのこうの騒ぎ立てたことだろう。いなくてよかったな、喧しいし、などと考えている時点で出水も太刀川のことは言えないのだけれど。




(ねぇこれ陽介に似てる)
(えー希子チャンってデート中に他の男のこと考えちゃう系女子?妬けるぅ)
(えー公平クンておれのこと以外考えるな系男子?引くぅ)
(ごめんなさい傷つく)




20160606