泣き腫らした目元の隠された赤に暫く気付く余裕がなかったのは、言い逃れしようのない事実だ。


「なんでお前が泣いてんだよ」
「み、かみ先輩…」


普段となんら変わらない部活後、自主練習をする部員の姿も少なくなった薄暗いグラウンド。
そこから少しばかり離れた水道の裏で、放置された洗濯籠と小さく丸まっている背中を見つけた三上は意識して呆れたような声音を作った。


驚いたように見上げてきたかと思えば次には色気もなくぐし、と力任せに目を擦りながら顔を背けるのは1つ下のマネージャーで、藤代と共にはしゃいで絡んできたり憎まれ口を叩いてきたりと中々に可愛げのない後輩だ。
取り繕うような言い訳も逃げ出す素振りも見せず、ただ何事もなかったかのように仕事を再開させようと立ち上がりかけたその頭をぐいと押し戻す。
わ、とバランスを崩した彼女は再び地面に腰をおろすことになり、その衝撃で頬から滑り落ちた数滴の雫が地面に模様を作り出した。


「…」


互いに口を開かず、空が少しだけ暗くなる。
先程よりもさらに減った部員達の声と、ぴちょんと水道から水が跳ねる音。そして時折鼻を啜っていた彼女が不意に零した小さなくしゃみ。
それを横目で見下ろし、徐に羽織っていたジャージを脱いで頭から被せるようにバサリと投げかけた三上は、ガシガシ頭を掻くとふぅと息をついて彼女の隣にしゃがみ込んだ。
ぼすんと少々乱暴に片手を隣の頭に乗せる。


その状態のまま十数秒、ぼそり、ジャージの奥から声が零れてきて。


「…三上先輩」
「なんだよ」
「私が言っても、何の意味もないですけど。自己満足なので聞き流してください」
「は?」


ぽたり。
地面の上にまた1つ新しい模様が浮かぶ。


「私にとって、10番は、先輩ですから」
「…」
「三上先輩が、三上先輩の背中の10番が、好きです」
「…ばーか」


知ってるっつの。
そう続けた言葉は果たして彼女に届いただろうか。
乗り越えた筈の悔しさとはまた別の感情がじわじわと胸を締め付ける、それを抑え込むように三上は反対の手で顔を覆うように抑えつけた。
ぽたり、ぽたり。
肩を震わせる彼女は、今までずっと毎日泣いていたのだろう。ふとした瞬間に込み上げてくる感情をボールにぶつけていた自分と同じように、こうして涙を流していたのだろう。


誤魔化すようにぐっと頭を押さえつける手を強くしたら、それをぱしりと払い除けられる衝撃でまた1つ丸い水滴が零れおちた。




20121015