文武両道。多くの学校が教育目標だか何だかどこかしらで掲げているであろう、ありふれた四字熟語。
実際にそれがどの程度で成していると言えるのか、例えば部活に所属しながら有名な学校に受かればいいのか、学年で一桁の成績を取りつつ部活で表彰されればいいのか。
そんなことは人それぞれだろうし、基準なんて在りそうでどこにも存在しない。
自分の評価と他人の評価が一致しないことだって多いだろう。
「莉子、凄いじゃない!本当にもう、お母さん鼻が高いわ」
「何だ、どうした?」
「あなた!見て、莉子のこの前の全国模試の結果」
「おぉ。頑張ったな、莉子」
全国模試で一桁に収まる成績は、学校の先生や友人に褒められ羨まれ、両親は多大に喜んでくれて。
「次は全国だな森泉!」
「頑張ってください先輩、応援してます!」
小さい頃近所に住んでいたお兄さんに憧れて始めた剣道は、気付けば全国レベルと言われるまでになっていた。
自惚れじゃなくても、少なくとも勉学と剣道に関しては周りより優れていることに気付くのに時間はかからなかったけれど。
近所の人とか、学校の先生とかが「文武両道の鏡」として向けてくる期待の眼差しにはあまり慣れることは無くて。
少しばかり疲れた私は、週末の休日2日間、塾も部活も休んで現実から逃げ出した。
***
「あ、れ…佐藤…?」
「ん?なんや、莉子チャンやん。」
京都。日本の文化を色濃く残していて、東京に住む私には少し異空間に思える町。
にこりと笑いながら親が差し出してくれたのは新幹線のチケットで、ありがたく甘えながらここに辿り着いた私は特に行くあても無くただぶらぶらと道を歩いていた。
可愛らしい雑貨屋さんだとか、道を挟んで見えるお寺だとか。そんなものを眺めているだけでも結構楽しくて。
そんなこんなしている内に、ふいに視界を掠めた金色。
「なんで佐藤が京都にいるの?」
「それはこっちの台詞やって。俺は地元やさかい」
「…私は、あれ、散歩?」
「そらまた随分と思い切った散歩やな」
カラカラ笑う佐藤に唇が尖る。
自分で言うのもアレだけど、高嶺の花とか言って近付いてくる男子が少ない私にとって、佐藤は気兼ねなく接してくれる数少ない男友達だ。
関西弁で、見た目が派手で、軽い性格をしていて。
それでいて、たまに全てを見透かされそうな錯覚に陥る。そんな奴。
今だって、そうだ。
一瞬だけ細められた目に怯む暇さえなく、ポスンと頭に手が乗せられる。
「よっしゃ、男前なシゲちゃんがここら案内したる!」
「え?佐藤用事あるんじゃないの?」
「今から帰るとこやって、美味い飯でも食い行こや」
ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられて、促すように一度背中を叩いた手が凄く優しい。
ニッと笑った佐藤がなんだか眩しくて可笑しくて、ふざけて差し出された手を思いっ切り握り返した。
20110916