私と水野君とは、中学校生活の3年間偶然にも同じクラスだったという、言ってしまえばそれだけの関係だった。
小学校は別々だったから昔からの知り合いだった訳ではないし、運動が苦手で文化部だった私はサッカー部のマネージャーになるどころか放課後グラウンドで会うことすらなくて。
ただ、そんなに共通点が無いにしては、多く会話を交わしていた方だと思う。
幸いにも成績は良い方だった私は勉強の話なら彼と出来たし、ずっと同じクラスだった分話しやすさは他の男子よりも上だったから。



「あれ、森泉…だっけ?」
「うん、よろしく水野君」



あの日、入学して間もない頃、体調の優れない友人に代わって日直を引き受けた日から。
少しずつ、少しずつ私たちは関わるようになっていった。



***



「…そっか、武蔵森行くんだ」
「あぁ。…森泉は?」
「私は桜蘭。推薦もらえたから」



休み時間や、放課後のちょっとした時間。
こうやって会話する私たちは、中学生ならではとでも言うべきだろうか、よく付き合っているのではと噂されては女子から穏やかでは無い視線を貰ったりもしていた。
少なからず水野君に好意を抱いていた私としては嬉しいような何とも言えない気持ちだったけれど、お互いに否定していたこと、そして一緒に帰ったりだとか教室以外での接点があまりにも無いことで大事になったことは一度も無くて。



水野君が私をどう思っていたかなんて知らない。
少なくとも嫌われてはいなかったと思うし、例えばちょっとした怪我をした時にとても心配してくれたりだとか、私と水野君の進路が違うことを知った時の顔だとか。
そういうものを見ていると、自惚れたくなるときもあったけれど。
それでも、水野君が武蔵森に行くと知った時にこの気持ちは封印しようと決めた。
きっと彼はサッカーを続けて、そしていつか日本を支える存在になる。
私はそれをブラウン管越しに見つめて、少しばかり痛む胸と共に懐かしさを感じるようになるんだろうと、そう思って。



卒業式の日に、どちらからともなく交換した名札と、貰った第2ボタン。
もうすぐ1年が経つ今でも、未練がましくお守り袋に入って携帯にぶら下がっている。



***



(…あ)



休日。
久々に電車に乗って、特に何か用事がある訳でもなかったけれど何となく出かけてみようかと、そんなことを思って外に出た。
少し肌寒いくらいの車内、休日故か昼間だけれど予想より人の多いそこで音楽を聴きながら窓の外を眺める。
次の駅は少し大きな駅で、色々な路線が集まっていて。
たくさんの線路、その中でふと向こうから近付いてくる1つの電車。



(水野、君)



並走するそれをぼうっと眺めていたら、少しずつ私の乗っている電車を追い越していく車体の中に見慣れた姿を見つけた。
ヘッドホンをつけながら何かの文庫本を眺めている、変わらない、懐かしい彼。
視線を外せないままでいると、まるでドラマのワンシーンのように、だなんて気恥かしい言葉を使いたくなるくらいにジャストタイミングで。
顔が、上がる。視線が合う。
すぐに駅のホームによって遮られてしまったけれど。



ブゥ…ン



「わっ」



ポケットの中で握りしめていた携帯が震動し、思わず声が漏れてしまう。
周りを見回しても幸い注目している人はいなくて、ほっと息をつきながらそれを取り出して。
パカリと小さな機体を開く。そろそろ替えようかと思っている、少し古い機種。
さっきの短い震動はメールを知らせるもので、画面の右上には新着メール1通の点滅。



『水野竜也』



メールフォルダを開いて、差出人のところに見えた4つの漢字。
無意味にさっきまで見えた電車の方を数秒見つめた私は、ぎゅっと携帯を握りしめて乗り込んでくる人々に頭を下げながら電車を飛び降りた。






20110915