「夏祭り?この時期に?」
「って思うだろ?それがあるんだよ」
「あそこにある神社の前の道路を丸々1本使ってさ、それなりに大きいんだぜ」



引っ越してきた翼や莉子は知らないだろうけどな。
そう笑ったのは誰だっただろうか。
部活後の部室で、あれやこれやと雑談やら次の対戦相手やらについて話していた時に、ふと飛び出て来た夏祭りという言葉。
もう秋だけどね、と頬杖をつく翼に苦笑しながら、わいわい騒ぐ六助や直樹を眺めた後ちらりと柾輝に視線を送ればぱちりと目が合い。



「本当だぜ」
「へぇ」



畑兄弟や直樹だけでなく、柾輝が言うのなら本当に季節外れのお祭りとやらがあるのだろう。
そんな少々失礼なことを考えながら、調子に乗った直樹が翼に殴られるのを私はぼうっと眺めた。



***



(…あちゃぁ)



冒頭のやりとりが1週間程前のこと。
そのままあれよあれよと言う間にいつものメンバーで祭りに行こうということになり、五助が浴衣着てこいというのをさらりと無視してラフな格好で集合場所まで来て。
結構人が多いことに驚きつつも、漂ってくる良い香りになんだかだんだんと楽しくなってきて、満更でも無さそうな翼も一緒に祭りの中へ飛び込んだのだ。
金魚掬いでは畑兄弟の不器用っぷりに笑い、たこ焼きにいちゃもんをつける直樹を引っ張り、かき氷や綿あめなんかを買い。
久々に感じる祭りというものを堪能していたのだけれど。



(これは、翼あたりに怒られそうだなぁ…)



見渡す限り、人、人、人。
それも見知らぬというオプション付きだ。
サッカー部の、しかもディフェンスラインを担っている彼らとは違って、ただのしがないマネージャーでしかない私は人とぶつかることに慣れていなくて。
すいすい人を避け、またぶつかっても重心がぶれない皆と、すぐさまよろけてしまう私。
結果、1人逸れるという少しばかり情けない結果になってしまった。



「あ、そのお面くださーい」
「あいよっ!あれ、嬢ちゃん1人かい?」
「友達と逸れちゃって」



まぁ慌てても仕方ないと、目に入ったお面が大層可愛らしかったので買ってみる。
笑いながら安くしてくれたおじさんに感謝しつつ、頭の上にそれをつけてみればなんとなく楽しくなって頬が緩んだ。
屋台と屋台の間、人の通行の邪魔にならないとこにしゃがみ込んで、ポケットを探る。
右、何も入っていない、それなら左。
手が硬くて四角い、目当てのものを引っ掴んで。



(かき氷買った屋台の、近く、お面屋さん、と…)



ぽちぽち、恐らく早くも遅くも無いであろう速度で小さなボタンを打ち、メールを作成する。
昨今は本当に便利になったと思う。こうやってすぐ離れた相手とも連絡がとれるのだから。
アドレス帳から目当てのものを選んで、送信。
人が多いからか、それともたまたまか。普段より少しばかり時間のかかって表示された送信しましたの文字をみて、ぱたんと携帯を折りたたんだ。



「莉子」
「おりょ、早かったね」



さて、どのくらいで会えるだろうか。
こういう時は下手に動くよりも待っていた方がいいだろうと判断し、またこんなに人が多くては電話は声が聞きづらいだろうと思った私はメールだけ送るとポケットにしまいこんでぼんやりと空を見上げていた。
皆で来るのか、いや、きっとメールを送り付けた彼は皆を先に行かせて1人で来るだろう。
そんなことを考えていたら、思っていたよりも随分早く、頭にぽすりと軽い衝撃を感じて。



「随分積極的な誘い方だな」
「違うよ、本当に逸れたんですー。か弱い女の子がこの人混みでアンタらと同じように歩けるとでも?」
「どこにか弱い女の子がいるって?」
「予想通りの返事をありがとう」



くく、と喉の奥で笑う柾樹。
寧ろ2人きりという状況を作り上げたのは柾樹の方ではないかと言ってみれば、そうかもなとしれっとした顔で言い返された。
くいと腕を引かれるがままに立ち上がる。
私の頭にあるお面に気付いた柾樹は、また面白そうにくく、と笑って。



「ね、ね、デート?」
「色気もクソも無ェけどな」



繋がったままの手をじゃれるように引っ張りながら見上げると、ふいに目が合った柾樹は数秒何かを考えるような目になった。
首を傾げてから、気付く。柾樹の目がお面に向いていることに。
まさか柾樹も欲しいのだろうか、すごく似合わないけれど。
そんなことを考えていたら、伸びて来た彼の手に反応するのが一瞬遅れた。



「え?」



暗くなる視界。
恐らくお面を下ろされたのだろう。小さな穴から、かろうじて小さな世界を覗くことが出来た。
だがその限られた視界もだんだんと暗くなってきて、終いには真っ暗になってしまう。
何も見えなくなった視界、少しばかり顔に押しつけられたお面。
おでこの辺りに何かが触れたのが、薄い面越しに分かった。



「…キザ」
「なんとでも」



再び持ち上げられたお面に、眩しさから眉を顰めてしまう。
先程よりも幾分か近いところに得意げに笑う柾樹の顔があって、それがなんだか悔しかった私は繋いだままだった手を思いっきり握りしめてやった。






20110930