夏。
地球と太陽が一番近付き、気温がぐんと高くなる時期。
その暑さに刺激されてなのかなんなのか、世の中とまで言ってしまっていいのかは分からないが、少なくとも日本の学生たちまでもが一気に熱くなる。
野球やサッカー、テニスといったスポーツから、ダンスや吹奏楽といった文化方面に渡り、大会やコンクールが数多く開かれ。
部活動に勤しむ若者が1つのことに打ち込み、それこそ青春などという青臭い言葉を使ってしまいたくなるくらいには汗と涙を仲間たちと分かち合う季節。
それは、強豪校と言われる武蔵森も勿論例外ではなく。
例外どころかトップを突っ走っているくらいだろう彼らは、夏の間毎年恒例の強化合宿へと赴いていた。
「では、今日の練習はここまでとする。」
「よっしゃー!」
「こら、藤代!」
その練習量は普段の練習とは比べ物にならない。勉学の傍らで部活をする普段とは違い、サッカーの為だけに1日1日を費やしているのだから当然と言えば当然である。
そんな中告げられた練習終了の合図に、いつも通りのテンションの高さを見せる藤代はいいとしても、この日だけは周りの皆も少しばかり様子が異なっていた。
そわそわしている、という表現が合っているだろうか。どこか落ち着かない。
その理由はこの場所と、日付。そして毎年の恒例行事が原因なのだが。
「夕飯出来てるので食べちゃってくださいねー」
「「「おっしゃー!」」」
極限にまで空腹となった胃を満たせる喜びだけでは無い何かを滲ませながら駆け寄ってくる部員たちに、ただ1人のマネージャーである少女は微笑ましさよりも苦笑の方が割合の大きい笑みを浮かべた。
彼らがこのような状態なのには理由がある。
今日は、この合宿所の近所で夏祭りが開かれる日なのだ。
厳しいことで有名なあの桐原監督がどういった経緯で認めたのかは知らないが、合宿の間に開かれるその夏祭りには毎年部員が出掛けてもいいことになっていて。
それだけが合宿の楽しみだという部員もいるくらいには、皆待ち遠しくしている行事。
普段よりもテンションが高いのも仕方がないだろう、どんなにサッカーの上手い強豪チームとは言え、皆まだ中学生だ。
そう苦笑を深める彼女もまた、藤代に口煩く誘われるのをあしらいながらも楽しみにしていたりするのだが。
まぁ、人生思い通りには中々行かないものだ。
なんて大それた台詞を使ってしまうには、あまりに陳腐なシチュエーションだけれど。
「…何やってるんだ?」
「先輩」
食器も洗い終えたところで、さて準備をするかと食堂を後にしようとした矢先に監督から頼まれた仕事は、別段難しいものでもそこまで時間をとるものでもなかったけれど。
祭りから帰ってくるのが何時になるかは分からない、万が一遅く帰って来てその後に仕事、寝不足でマネージャー業に支障を来すなんて笑えなくて。
第一、仕事を残したまま遊びに行くなんて彼女の性格が許さなかった。
それ故に、藤代あたりが煩そうだなと思いながらも祭りを諦め1人仕事をしていたのだが。
「お祭り行かないんですか?」
「1人メンバーが足りないことに気付いたからな」
入口から姿を現したのは、我らがサッカー部のキャプテンで。
ガタリ。正面の椅子が音をあげ、渋沢が腰を下ろす。
そのまま机上に散らばっていた紙を眺め手を動かそうとする渋沢に、突然の訪問者に動きを鈍くしていた脳が正常な働きを取り戻した彼女は慌ててそれを制した。
否、制そうとした。
「せ、先輩!大丈夫です、私が頼まれたんですし…」
「2人でやった方が早く終わるだろう?」
「でも」
「それに」
尚も反論しようとするマネージャーの言葉を遮る形で渋沢が口にした言葉に。
暫し目を見開き固まった彼女は、悔しいような嬉しいような、相反する感情を持て余したまま俯くことしか出来なかった。
20111030