てくてく。
人のいない特別棟をただ1人歩く。
腕には大量の資料を抱え、昼休みという長いようで短い時間が終わる前にと早足で進んでいた莉子は静かな廊下に響いた己を呼ぶ声に顔を上げた。
視線の先で自分を見下ろしているのは、予想通りの人。
「三上先輩。こんにちは」
「おー。何、なんかの罰ゲーム?」
「監督に頼まれたんです」
これ、と示したのは腕から顎の先まである資料の山。
ただ普段から部員たちの洗濯物やら何やらを大量に運んでいる莉子にとっては、可愛いと言っても足りないくらいの重さなのだが。
けろりと涼しい顔をしながら再び足を進め始める莉子に、三上はただふーんと相槌をうち。
そして彼女の隣を歩きつつ、腕から3分の2程を奪い取った。
「ありがとうございます」
「誰か部員使えばいいじゃねーか」
「男子棟に行く程のことでも…」
「そーかよ」
どうせコピーやらなんやらで昼飯もまだなのだろう。
そう言う三上にちろりと目線を上げた莉子は、部活前に食べるからいいですと視線を前に戻した。
「それにしても、三上先輩って身内には優しいですよね」
「はぁ?」
「クラスの女子が、三上先輩は冷たいけどまたそこがいい、って。そんなこと無いから…二重人格ですか?」
「お前に言われたくねー」
「は?」
適当な言葉を投げ合いながら、部室までの道のりを歩く。
休み時間の中でも学生にとって一番のオアシスであろう、昼休み。
外に出れば、風に乗ってガヤガヤと騒がしい声が耳に届いて。
同時にふわりと香った香りに、三上は自分の目線よりも下にある頭を見て首を傾げた。
「あれ、お前シャンプー変えた?」
「…」
「その顔地味に傷付くぞ…」
「まぁ変えましたけど。この香り嫌ですか?」
「別に」
そーですか、という言葉を最後に流れる沈黙。
特に今更気まずさを感じる訳でもなく、そのまま進んだ部室までの道のりだけは至って平和なものだった。
(あっ莉子!うわ三上先輩までいる!浮気!?)
(嫌がる私を先輩が無理矢理…っ!)
(だぁぁぁお前がいると相乗効果でうるさいんだよ…!)
(相乗効果ってなに?)
(私たちを前に三上先輩は無力ってことだよ)
(てかお前ら別に付き合ってもいないだろ…)
20110906