「だろ、でさ…」
「わお、楽しそう!」
「アイツら、なに企んでやがんだ…」
厳しい練習を終えた後、皆着替えるのも億劫な程に疲れている者がほとんどだと言うのに。
そしてパタパタと、例えるならそう、小学一年生が大きなランドセルに逆に背負われているような、そんな微笑ましさを含んだ感情さえ抱かせる程大きな籠を抱え走り回っていた莉子も勿論例外では無い、筈なのに。
体力を使い果たしている筈のエースストライカーとマネージャーが2人でコソコソと何かを話していた時点で、嫌な予感はしていたのだ。
普段から犬のように纏わりついてくる藤代と、その藤代と誰よりも息のあう莉子のコンビは、三上にとってとにかく厄介でしか無いのだから。
「アイツらが一緒にいると寒気がする」
「まぁまぁ、仲良くて微笑ましいじゃないか」
「渋沢はそうだろうよ…」
はぁ、と1つ大きな溜め息。
幸せ逃げるぞと苦笑をされるも、それ以上に普段の平穏をあの2人に奪われている気がする三上にとっては今更なことで。
だから、いつもあの2人には警戒しているから。
莉子1人で来たことに、気が緩んだのは事実。
「三上先輩」
「あ?」
「すみません、今夜ちょっと時間貰えると嬉しいんですけど…」
駄目ですか?
眉を下げながら言う莉子に、本人は全くもって自覚していないのだが、意外と面倒見の良いことで有名な三上が断る筈も無く。
寧ろ、彼女が相談事のようなものを持ちかける素振りを見せることが珍しいなと。
完全に、油断していたのだ。
***
「…」
「あ、三上先輩遅いッスよー!!」
「どうぞどうぞ!遠慮しないで入ってください!」
「俺は今猛烈に自己嫌悪している」
部屋の中で自分を待っていた藤代と莉子の姿に、やられたと思いながらも既に後戻りは出来ず。
ニヤァと口元を歪ませる2人の手には、新型ゲーム機のコントローラーが握られていた。
最近部内でも流行っているそれに、確かにこの2人はハマっていて。
よく深夜までゲームをしていることは知っているが、一緒にやりましょうよと誘われても絶対に今まで断っていたのに。
この2人と、ゲーム。
しかも対戦物では無く、某赤い帽子のオジさんが活躍する、あれ。
プレイヤー皆で協力して、クリアしていく的な、あれ。
(絶対ェめんどくせぇ…!!)
頭を抱えてみても、三上の分のコントローラーも用意されウキウキとキャラクター選びをし始めている2人。
後悔は後に悔いるから後悔と言うのであって。
2人の間に座らされてしまえば、もうどうすることも出来なかった。
「なんで俺がヒゲだよ!」
「だって赤いオッサン嫌ですもん俺」
「ほらほら行きますよー!遅れた人は壁に挟みますからね!」
赤い帽子と2つのキノコが画面中を飛び回る。
もうこうなりゃヤケだと座りなおした三上の目の前で、黄色いキノコが赤い帽子へとヒップドロップを繰り出した。
開始早々、画面の底へと消えていく、赤。
「「やりぃっ!(パンッ)」」
「ざけんな!」
お返しとばかりに三上が藤代の操作するキャラクターを踏みつけるも、イマイチ上手く踏めなかったのか変な方向へジャンプした赤はまた画面外へと消えていき。
爆笑する2年コンビ、なんとか怒りを抑えながらも米神が引き攣るのを抑えられない三上のキャラクターがシャボン玉に包まれ登場する。
それをすかさず踏みつける2つのキノコ。
下には、針の山。
「あはっ、あはははは!!」
「腹痛ェ!!!」
「…っ!!」
ズリズリズリ。
再び現れた赤い帽子が、キノコたちによって押されていき。
ジャンプをすれば片方が踏みつけ落とし、掴んでは投げられて。
口を開けた敵キャラクターへと一直線。
やっと中間地点までやってきたところで、画面の左上、3人の残りのライフは5と5と1。
キノコたちが5、ヒゲが1。
ブチッとどこかで何かが切れる音がした。
「お前ら表へ出ろ!!!!」
「先輩大人気無いッスよ、ゲームの決着はゲームでつけなきゃ!」
「そうですよーほらほら黄色いキノコに狙われてますよ?」
きゃっきゃとはしゃぐ藤代と莉子の顔はそれはそれは輝いていて、きっと渋沢辺りがいれば微笑ましいなと頬を緩める程なのだけれど。
生憎キャプテンは既に布団の中、他の部員も恐らくは就寝しているであろう。
例えこの場にいたとしても、三上へ同情の眼差しを送るだけだ。
ならば壁に挟んでやろうとスターを手にした三上が爆走すれば、何食わぬ顔でついてくる2つのシャボン玉。
結局朝まで続いたゲーム大会に、寝不足以上の何かを感じさせる三上の姿が翌日のサッカー部では目撃されることとなった。
20110907