朝、殆どの中学生ならばまだ寝ているであろう時間帯。
「…」
むくりとベッドから上半身を起き上がらせた莉子は、重い瞼に眉をこれ以上なく歪め。
薄く目を開いてみればぼやける視界、動きが鈍い脳。
思いっきり布団を跳ね除けて身体を伸ばすと、ガシガシ乱暴に頭を掻きノロノロと洗面所に向かった。
***
「あ?」
サッカー部員各々がランニングをこなす中、いつものように1人パタパタと走り回る周りよりも小柄な影。
タオルやらドリンクやらを用意するその姿は最早サッカー部内では見慣れたもので、ふいにそんな莉子を遠くから見つけた三上は声を零した。
隣を走っていた近藤にどうかしたかと声をかけられ、何でも無いと言葉を濁す。
もう一度ベンチの方へ目を向けてみると、既に莉子は洗い物か何かだろうか、どこかへ去った後で。
「藤代がいないと平和だよな」
「何が?」
「森泉が静かで」
「三上あの2人に懐かれてるもんな」
「あれは懐いてるとかじゃ無ェだろ」
なんとなく話題に上った藤代に、どうせ例の如く朝練には遅れてくるのだろうから後で殴ってやろうなどと考えながら。
「あ、渋沢」
「ん?」
走り終わった後の汗をタオルで拭い、他愛もない言葉を交わしながら1限までの時間をいつものように過ごした。
***
朝のうちに洗い物は全て済ましておいた、まだ買い出しの必要なものは無かった筈だ。
後は器具のチェックと…などと考えながら、放課後の部活の始まる時間帯、寮の自室から続く廊下を歩く。
そう言えば今日は珍しく昼休みに何も仕事が入らなかったな、と思いつつ出口へ続く角を曲がったところで、誰もいるはずの無いそこに見えた影に莉子は思わず足を止めた。
入口のところ、壁に寄り掛かっているその人物。
「なんでこんな所にいるんですか三上先輩。グラウンドはあっちですよ」
「全く同じ質問返してやるよ」
ニヤリと口元を上げる三上に、めんどくさそうに顔を顰める莉子。
後輩のそんな対応に1つ溜め息をついた三上は、再び歩き始めそのまま脇を通り過ぎて行きそうな莉子の頭をガシと掴んだ。
当然止まる動き、何だとでも言いたげな視線が見上げてくる。
もう1つ、溜め息。
「授業にも出れないくらい体調悪い奴が部活行こうとしてんじゃねぇよ」
「…。…半日寝てたから平気です」
「どうせなら1日寝てろっつの。渋沢には朝のうちに言っといたから」
「…」
三上先輩めんどくさい。
ボソリと聞こえてきたその台詞に米神をヒクリと引き攣らせたが、そのまま己のユニフォームを握りしめ動かなくなった莉子に本日1番の溜め息をついた。
(めんどくせぇのはお前だっつの)
藤代と馬鹿騒ぎをしていたかと思えば、あの偏屈な監督にも認められる程の働きぶりを見せてみたり。
渋沢にじゃれついて嬉しそうに笑顔を見せるくせに、学校でたまに見かける姿は無表情だったり。
よく分からない、変な奴。
確か最初の印象はそんなものだった気がする。
「三上先輩の世話焼き…」
「ああん?」
とりあえずは、さっさとこの頑固者を寝かせて部活に行こう。
藤代が煩そうだなと考えていた三上は、またもやボソリと聞こえてきた声に頬を抓っておいた。
20110909