きょろきょろ、こそこそ。
そんな擬音が似合うかのように背を丸め、なるべく目立たないよう、だが立ち去るでもなく誰かを探しているかのように忙しなく辺りを見回している1つの影。
己の朝食の膳を持ち、壁際を歩きながらも必死に首を伸ばしてサッカー部員たちが朝食をとっている室内を眺める。
その丸めている背を伸ばせばもっと遠くまで見えるだろうに、残念ながらあまりにも滑稽な姿を指摘する者は誰もいなかった。



「なんだ森泉、気持ち悪ィぞ」
「げっ、…三上先輩」
「最初のげっ、は何だげっ、は」



びくりと大袈裟な程に肩を震わせ、背後からかけられた声に振り向き少しばかり眉を顰める。
そんな莉子の姿にひくりと頬を引き攣らせた三上は、しかし莉子の手元を見た次の瞬間表情は一変し、それはそれは楽しそうにニヤリと笑った。
その三上の表情を見てますます眉を顰める莉子。まるで藤代と莉子がペアで三上に絡みに行った時の三上のような。
くるりと背を向け立ち去ろうとする莉子、だが得た獲物を逃すかと言わんばかりにガッシリと掴まれた肩に、隠そうともせず盛大な溜め息を吐き出した。



***



「そうだよなーそりゃ藤代を探すよなー」
「う、る、さ、い、です…!」
「アイツがいなくて残念だったな。ほら、観念しろ」



「…何してるんだ?」



普段よりも少し遅めに寮の食堂へと足を踏み入れた渋沢は、そこで目にした光景に何も考えずぽろりと先の台詞が零れ落ちた。
窓際の席、並んで座っている2つの背中。
その2人が一緒にいるということは、別段珍しいことでもなんでもない。
なんでもないのだが、ただその様子が少しばかりいつもとは違っていて。



面白そうに箸を莉子へ押しつける三上と、これ以上無く拒否反応を示している莉子。



「おう、はよ渋沢」
「あぁ…どうしたんだ?」
「キャプテン…!どうしたもこうしたも、三上先輩が…」



若干涙目に見えなくもない莉子が指さす先には、先程まで押しつけられていたもの。
三上の手から伸びる箸、その先に挟まれた緑の野菜。
未だにニヤニヤしながら箸を弄っている三上を横目に莉子は口を尖らせた。



「私のお皿から取ってくから、食べてくれるかと思ったのに」
「阿呆、バカ代じゃあるまいし食ってやるワケないだろ。いい歳してピーマン食えないとかガキかお前は」
「あぁ、そういえば今日のメニューは全部ピーマン入ってたな」



ちゃんと好き嫌いしないで食べないと駄目だぞ。
微笑みながら言われた言葉に、うっと莉子は言葉を詰まらす。
三上のようにからかい半分で食べさせようとしてくるならば、必死で抵抗できるものの。
こうやって落ち着いて諭されると、渋沢の人間性も手伝って反論は許されないような気がしてくるのだ。



でも。



「…嫌です」
「お前な…」



ふいと横を向きつつ。
呆れたように溜め息をつく三上、苦笑しながらも頑張れよと去り際に渋沢から頭を撫でられてしまってはやはり嫌いだと切り捨てることは出来なかった。
ほれ、と再び差し出される箸、何度見ても変わらずそこに鎮座しているピーマン。暫しの睨み合い、堅く結ばれた唇がたまに噛み締められる。



上下に振ってみたり、先程のように口元へ押しつけてみたり。
頬杖をつきながらも面白そうに眺める三上と、頑なに口を閉ざしつつ視線を彷徨わせる莉子の姿はチャイムギリギリまで食堂の窓際で見ることが出来たという。



(私がピーマン食べたら三上先輩何かくれますか)
(拍手をやるよ)
(やっぱり誠二探して来ようかな)






20110918