「先輩、今夜空いてます?」
「なんで?」
「これ、行きませんか」
こういうの好きでしょ。
そう言いながら渡されたのは今日の夕方から行われる花火大会のチラシだった。毎年行われている、それなりに大きなものだ。
正直なところを言えば、とても興味があった。ほとんどの人が綺麗だと感動するであろう花火というものが、例に漏れず彼女もまた好きだった。
ただ、機会が無かっただけで。下心無しに誘ってくる男子なんていなかったし、一緒に行くような友達もいなかった。
高校に入って出来た友人はこういうときは必ず彼氏にとられるし。まぁそれを邪魔する気も無いけれど。
そんなこんなで今まで花火大会に行ったことは無かったのだが、目の前の後輩は一緒に行こうと言う。
彼もまた下心があるのは分かっているのだ、なんたって顔が好みだから付き合ってくれと堂々と言ってのけた奴だ。
ただ、それでもその誘いは甘美なものだった。
「…どうやってここ知ったの?」
「企業秘密です」
「そうそう分からない穴場でしょうに」
「そりゃ惚れた相手誘うならそれなりに頑張りますよ」
毎年決して少なくはない人が集まるこの花火大会は、一番よく見える河原は例年有料席としてチケットが売られる。
これがまた中々に人気の代物で、そうそう高校生が自分で手にできるものではない。少々お高いという理由もある。
だから花火大会に行くと聞いて想像したのは、屋台を巡りながら少し遠い花火を眺めるか、穴場と言われつつも結局は人で溢れる場所で立ち見をするかどちらかだった。それがこの後輩は、こっちですだなんてしれっとした顔で手を引いたかと思えば、本当の意味での穴場に案内してくれて。
…少しばかり胸の奥の方が歯痒くなったのは気のせいだ。初めての花火大会に浮かれすぎているのだろう。
まるで恋人同士のデートみたいだなんて。そんな陳腐な感情はいらない。
「屋台のってなんでか食べたくなるのよねー」
「あんまそれ食ってると焼きそば入りませんよ」
「ベビーカステラは?」
「どうぞ」
屋台で買い込んだものたちを膝の上に広げ、なんやかんやと話していればすぐに空は暗くなった。
アナウンスが響き、何を言っているのかは微妙に聞き取れないが恐らくは演目の紹介だろう、こうやって1つ1つ紹介してから打ち上げるのかと妙に感心する。大会なのだからそれはそうか。
何故かここだけは聞き取れた。「創作花火『愛を込めて』」。
暖色の光が空に散りばめられ、一瞬の後腹に響くような音が追いかけてくる。目の前一杯の光と全身を襲う大きな音に思わず言葉を失った。
…綺麗だ。
恐らくハートの形なのだろう、円形ではない赤い花火がたまに混ざる。
次々と色鮮やかな光が夜空を彩り、休む間もなく腹には重い音が響いてきて。
とても綺麗で。煌びやかなそれらを見ていたら何故か、
(…なんで泣きそうなのよ、私)
感動したからではない。残念ながらそんなに感受性豊かではない。
華やかで、眩しくて。そんなものを見ていたら無性に虚しくなってきた。打ち上がっては輝き消えていく、その芸術に感動すればする程、心のどこか隅っこの方が必死に何かを訴えかけてくる。
それに気付かないふりをして。男なんて皆外見しか見てないんだから、そう言い聞かせ沸き起こりそうな感情を押し込めて。
「先輩、かき氷溶けるんで食べちゃいますよ」
「国見」
「はい」
「なんで連れてきてくれたの」
「好きそうだと思ったんで」
「言ったでしょ、遠慮しないって」
ぼそりと呟かれたその言葉にまた心の奥が苦しくなる。どうしたの私の心臓、少し大人しくしてなさいよ。
20150908