朝からぽつぽつと降り続いていた雨が、外が暗くなるにつれてその勢いを増していった。
今、窓の外は言葉の通りざぁざぁ振りだ。ちょっと久し振りかもしれない。


中学生や高校生の頃、とある時期になるとやってきた教育実習生というものに対して、大変そうだなぁくらいのぼんやりとした感想を抱いていた。あの頃の自分は正しかった、教育実習生ってこんな大変なんだ。
周りの先生方が帰られる中、自分に宛がわれた机があるのをいいことに職員室に入り浸る。まだ部活の顧問の先生とか、あと鍵当番の先生とかも残ってるから追い出されるような時間ではない。
正直なところ、家よりもここの方が仕事が捗るから。試験勉強も図書館でやる派な私は完全に人の目が無いと出来ないタイプの典型である。
今日やった小テストの採点を進めていく。丸、丸、これは…ちょっと惜しいけどバツかな。実習生だからって甘く点をつけると思ったら大間違いだ。本音?1つ例外を作ると途端に採点が面倒くさくなるから正解以外は切り捨ててるだけです。
明日の返却はブーイングをくらうかもしれない。幸い受け持たせてもらったクラスの子たちは皆いい子だから、戯れのようなものだけど。歳も近いからフレンドリーに接してくれるのだ。


ついでに授業計画のちょっとした見直しと、今日の簡単なレポートをお世話になってる学校用と自分の大学用に2つ。パソコンでカタカタやっていたら気付けば外は真っ暗になっていた。
時計を見てみれば、もうすぐ完全下校時間だ。鍵当番の先生が生徒を追い出しにかかる中職員室に居残っているのも居心地が悪い。
んー、と伸びを1つして。帰ろうと荷物を纏めていたら、ガラッと職員室の扉が開いた。


「あれ。お疲れ様です、まだ残ってたんですか」
「安田先生は忙しいんですぅー。そういうお前も何、いっちょまえに残業?」
「ここの方が捗るので」
「そういやいつも図書室に残ってたな」


ここは私の母校。安田先生は、丁度私が3年生のときに新任でやってきた先生だった。
当時から人気あったんだよなぁ、女子生徒にだらしないから一部からはすごい軽蔑されてたけど。でもなんだかんだ男子にも慕われてる良い先生だ。
ちなみに本人には言わない。だって調子に乗るから。


身一つで職員室に入ってきた先生は、自分の机に行くと何か作業するでもなく置いてあった鞄を持った。
あれ、もう帰るのかな。そう思うのと同時にこっちを振り返る。


「お前歩きだろ、仕方ないから乗せてやる」
「え、いいんですか」
「高校の時の制服ってまだ持ってる?お礼ならそれを着てくれれば…」
「あ、寺島先生だ」
「えっ」


やけに慌てる安田先生に嘘ですよって言おうとしたら、本当に開いたままだった扉から寺島先生が現れた。
噂をすればなんとやら。


「あら安田先生、やっとお帰りになるんですか清々します」
「寺島先生口が悪いにも程がありますよ」
「何をするでもなく準備室にコーヒー片手に居座られちゃこちらとしても迷惑です」


この2人も相変わらずだなぁ。
というか。安田先生、何か用事とか仕事があって残ってるわけじゃなかったんだ。そう思って、ちょっと、本当にちょっとだけ、お腹の真ん中ら辺がきゅっとする。
…まぁ偶然、だよね。




20150917