ナットを締める感覚が好き。きっと最初の切欠はこれだった。
気付けば新しい洋服よりも工具に心が高鳴るようになり、小さな部品を解体するのも大きな機械を整備するのも楽しくて。
女の子らしさなんて知らない。別にお洒落に興味がないわけでも可愛くなりたくないわけでもない、でも工具なんて扱えないのが女の子らしさなら、そんなものいらない。
どこか捻くれた考えを持ちながら島の造船所に入り浸り、少々物騒なお客さんをレンチで返り討ちにしながらオイルと錆塗れな日常を過ごしていたあたしを拾った変わり者が今の船長だった。
お前いいな、なんて。
ニヤリと笑いながらの随分と上からの物言いに、何故かコロリとついて来てしまったあたしも大概だ。
「船長ー!マストの補強終わりましたよぅっと」
「ご苦労だったな」
甲板の上手いこと日陰になっているところで読書に勤しんでいる船長こと我がハートの海賊団船長、トラファルガー・ロー。通称死の外科医、目付きと人相の悪さはピカイチだ。あと性格も…おっとこれ以上はあたしの口からは。
命綱でぶら下がったまま失礼ながら随分と高いところから報告したがそれを咎められることはなく、眩しそうにこちらを仰ぎ見た船長の口端は上がっていた。結構堅苦しさは無い船だ、この船は。ある意味では恐怖政治な一面もあるけれど。
見張り台よりも更に高いここは間違いなく船の中で一番の絶景ポイントで。
降りる前に一度満喫しておこうと果てしなく続く青色に目を細めた時、ふと違和感を覚えて先程とは違いピントを合わせるように目を細めた。
今日は晴天。偉大なる航路、いつ天気が変わるかは分からないけれど。
太陽の光を反射してきらきら光る水面がどこまでも続く、その中で。徐々に大きくなる1つの影。恐らく直に見張り台からも見えるようになるだろうそれは。
「船長!2時の方角に海賊船!!」
「…ベポ!」
「アイアイ!」
即座に船長の意を汲んで走り出す白熊の背中を視線で追う。
巨体に似合わず俊敏な動きをするベポならすぐ全船員に指示を出し終えるだろう。向こうの船が近付きすぎる前に準備を整えるだけの時間は充分にある。
あたしも持ち場につく為飛び降りようとしたけど、なんとなく嫌な感じがしてもう一度だけと敵船の方を見た。ら。
砲弾、とはまた違う何か。もう少し小さくて、でも堅そうで、そもそも砲弾ならこの距離を届く筈がない。何かがこちらへ真っ直ぐ飛んでくる。多分何かの能力だ。
こちらへ、というか、あたしへ?
「こ、っの!!」
咄嗟に腰元の工具セットからパイレンを取り出す。修理時は勿論、戦闘時のあたしの相棒だ。
ガギン、とかなり鈍い音。腕に伝わる重さに歯を食いしばり、よく分からない黒い物体を根性で跳ね返した。
それは呆気なく海へ落ちていく。なんだったんだろ、と首を傾げると同時、ヴン、慣れた感覚と同時に気付けばあたしの身体は船長のもとへ。
…丁度甲板に出てきたシャチが頭上から落ちてきた樽の餌食になってた。合掌。
「船長?」
「怪我は」
「船もあたしも問題無いです」
何かあったら船長怒るでしょうと言えば、おれのものを傷つけられてへらへらしてる筈ないだろうなんて。
仏頂面で当たり前のように返してくる。そんなところが狡い。
おれのもの。最も単純で最も深い愛情表現をこの船長様はしてくださるのだ。
20150902