きゃっきゃとはしゃぐ女子生徒たちとすれ違い教室の中へと入っていく。
どうでもいいと言えばどうでもいいが、何故女子という生き物はトイレ一緒に行こうが合言葉なのだろう。中学に入ったばかりの頃に連れションかよと軽い気持ちでからかったら倉持サイテーとドスの効いた声が返ってきたことを思い出す。
そういえばこの前この話題を出したら、とある後輩が真面目ぶった顔で「知らないんですか倉持先輩、女子トイレの扉は2人で立たないと開かないんですよ。ダンジョン仕様ですよ」なんて言い出すものだから大した奴である。
「まじかよ、ぼっちどうすんだよ」「だからぼっちにならないように日々必死なんじゃないですか」「女子の世界厳しすぎか。俺男子でよかったわ」「倉持先輩友達いないですもんね」余計なことまで思い出した。女子相手に手をあげるわけにもいかないので沢村を犠牲にしたのは記憶に新しい。


自分の席に戻ろうとしたところで、普段ならさっさと昼食を食べ終えたら寝るかスコアを見ているかの二択な御幸が窓の外を眺めているのが目に入った。
珍しいこともあるものだ。興味本位半分、暇なのが半分。倉持の足は御幸の席へと動く。


「なに黄昏てんだよ」
「んー?いや、あれ」
「あ?」


あれ、と指される方を見てみると、なるほど御幸が眺めている理由は分かった。
先程倉持の回想に出てきた人物をはじめ、野球部の後輩たちがクラスメイトとじゃれている姿が目に入る。次が体育なのだろう、体操服に身を包んでいる姿は少し新鮮だ。
男女入り混じってドッジボールのようなものをしているところを見ると上手くクラスに溶け込めているらしい。そういえば女子は日々必死なんだったか。
「おいしょー!」「沢村ないす!」「おーしおしおし!」「おしおしおーし!」上手く1人にボールを当て、沢村と楓がハイタッチを交わす。そう言えばこの2人は同じクラスだった。
なんというか。


「あいつら元気な」
「な。まぁムードメーカーなのはいいことじゃねぇの」
「沢村は天然だからな。佐藤は養殖っぽいけど」
「ぶっ」


言い得て妙…などと言いながら腹を抱える御幸は置いておいて、窓の下では相変わらず後輩たちが無邪気にはしゃいでいる。いつの間にやら沢村と楓の一騎打ちになっていて、周りではクラスメイトたちがやんやと煽っていた。九割くらいは楓の味方だろうか。
おいおい仮にも投手だろ、とも思うが楓は器用に沢村のボールを避けるし、投手に怪我をさせたくないからか足ばかり狙う楓のボールは沢村が軽く跳ぶだけで当たらない。
ぼうっとその様子を眺めていると、予鈴が鳴り響いたことによって終わりの見えないドッジボールは唐突に打ち切られた。一人がボールを片付けに行くのを見送り、思い思いに肩などを回しながら校庭の方へ向かおうとする。
と、そこで。隣の男が窓を開けた。どうしたんだと問いかける間もなく御幸が少しだけ声を張り上げる。


「楓ー!」
「?あ、一也くーん!」
「は!?おい俺には挨拶無しか御幸一也ー!!」
「はっはっは、俺先輩な」


こちらを見上げた楓はきょとりと一度瞬くと、にこにこ笑いながら大きく手を振ってきた。隣にいる倉持に気付くと律儀に頭を下げるあたりさすがだ。ぎゃーすか騒いでいる沢村とは違う。


「おいコラ沢村ぁ、同室の先輩を無視とはいい度胸じゃねーかあぁん?」
「はっ!もっち先輩お疲れ様っス!!」
「誰がもっち先輩だ」


愛想のいい笑顔を残して踵を返した楓に引き摺られて沢村も去っていく。
頬杖をつきながらそれを眺めて、同じように窓の外を見ている御幸をちらりと見て倉持は呟いた。


「いいのかよ」
「ん?なにが」
「めんどくせー」
「ははっ。俺今は野球一筋だし?あいつが幸せになるなら祝福しねーとなー」


でも沢村連れて来たらボコるわ。はっはっは。
さらりとそんなことを言ってのけるものだから、思わず倉持は脱力した。そうだ、こいつはこういう奴だった。どこまでも胡散臭い。
前に一度楓に告白しないのかと茶化し九割本音一割で言ったところ、「結婚考える歳になって一也くんがまだフリーだったら考えます」だなんて本気か冗談か分からない笑顔で言われたことを思い出す。考えが読めないのはこちらも同じだ。
さっさとくっ付けばいいのに。そうは思うものの、あまりつっつくと良いことがなさそうである。そっとしといた方が我が身のためなのかもしれない。




20170125