後ろから近づいてきた自転車の音に特に何も考えず、強いて言えば少しばかり道路の隅に寄ってみたのだけれど。
そのまま隣を通り過ぎるかと思いきや、ぽんと頭の上に片手を乗せられて思わず肩が小さく跳ねた。
「桃矢くん」
「よう。」
お隣に住んでいる、3つ年上の桃矢くん。
中学生になって上下関係に気を遣うようになってきたけれど、桃矢くんは昔からお兄ちゃんみたいだったし向こうも何も言わないから、相変わらず敬語は抜きで話させてもらっている。
歩いている私とは違い自転車に乗っていた桃矢くんは、キキッとブレーキ音を響かせると自転車から降りて隣に並んだ。時間は大丈夫なんだろうか。
まぁ意地悪っ子にみえて真面目な人だから、遅刻とかはしないのだろうけれど。
小学生の時は一緒に学校に行ったりもしていたけれど、やっぱり学校が変わると会う機会も少なくなってきて。
お互いに、と言うよりも主に私があーだこーだと最近あったことを話して、桃矢くんは相槌をうってくれる。
「ところでお前さ」
「うん?」
「…、」
「なにさ」
そして桃矢くんは、昔から妙に勘が鋭い。
じっと見つめられてどこか居心地が悪いというか、後ろめたい気持ちになるのも数えきれないくらいだけれど、今日のこれは今までの比ではなかった。
だって、今私が身を置いている状況は人に言ってもそう信じてもらえるものではない。
何に感付いたのかは知らない、ただ一応言っておくと私は巻き込まれただけで当事者じゃないぞ桃矢くん、心配するなら貴方の妹、桜ちゃんだ。
私は彼女の単なるサポーター役にすぎない。
「…はぁ。なんでもねー」
「さいですか」
「あんま危ないことすんなよ」
またぽんと私の頭を撫でると、腕時計を確認して自転車に乗り去っていく。
私はといえば、ただ間抜けにも自身の頭に手をあてて背中を見送ることしかできなかった。
クロウカード。
原理とかは正直よく分からないけれど、それに封印されていたものたちが今あちこちで騒ぎを起こしていて、それを再び封印している桜ちゃん、とオマケに私。
私は桜ちゃんみたいに純粋ないい子ではないし、言ってしまうと自分に害がなければ結構無関心な人間だ。
それでも成り行き上とはいえ非現実に首を突っ込んでいるのには、確かに桜ちゃんが心配だという理由も大きいのだけれど。
世界を救いたいだなんて思ったことはない。世界の為に自分が危ない目に遭うのを厭わないような性格はしていない。
ただ、貴方が存在するにはこの世界が必要だから。それだけの理由で私は今日も非現実へと走り出す。
20121031