最近の降谷はいつにも増して忙しそうにしていた。理由は例え本人から聞いていなかったとしても明確だ、最近はテレビのニュースもその話題たちで持ちきりだから。
国際サミットの開催と、無人探査機「はくちょう」の帰還。その2つがこの日本で同時に行われるとなれば、国を守る為に日々奔走している公安警察なんて寝る暇も惜しんで走り回ることになるのは火を見るよりも明らかだ。
黒の組織の主な幹部がちょうど皆アメリカにいるとベルモットから情報が入っていることもあり、降谷は普段よりも随分と表立って公安の仕事に勤しんでいた。数日前からは碌に顔も見ていない。電話越しの声なら何度も聞いているけれど。
澪もまた適当に切った生野菜を齧りながらヘッドフォンを耳にあて、パソコンに送られてくる情報を目を皿のようにして次々に頭に叩き込む。重きを置いているのはどちらかと言わずともサミットの方。開催は3日後まで迫っていた。
耳から入ってくるのはサミット会場近辺に仕掛けられた盗聴器が拾う物音。頭の片隅で怪しい音がないかどうかを処理しながら、公安部による警備視察のデータを片っ端から纏めていく。ここ数日そんな作業を繰り返していたおかげで小さな身体は似つかわしくない凝りで肩や背中がバキバキに固まっていた。
(……ん?)
ふと傍らに放置していた携帯が震えだす。
降谷からの連絡以外はサイレントにしてある為、相手は降谷1人に限られる。ヘッドフォンを片耳だけ外した澪は携帯の画面をスライドしスピーカーで繋いだ。
「はい」
『僕だ。今のところ不審な音は?』
「ありません。データはエレベーター関連とレストラン周りまで纏めたところです」
『助かる。地下の厨房なんだが、ガス栓にネットでアクセス出来るみたいなんだ。念の為手を打つよう公安鑑識に指示するから、追加でまた資料が行くと思う』
「了解」
地下の厨房。まだ手を付けていなかったファイルを開くと、降谷の言う通りそのガス栓はネットから開閉出来るようになっていた。最新型なのだそうだが、一般家庭ならともかくテロの標的になりそうな建物には些か向かないシステムだろう。ネット回線なんていつ誰が不正アクセスするか分からないのだから。誰だ設計考えた奴、と内心で舌打ちする。
そのファイルにフラグを付けてマークしておく。それと、と続く降谷の声に耳を傾けた。
『もうすぐはくちょうのニュースが流れる筈なんだ。見といてくれないか』
「分かりました。録画はします?」
『いいかな。何か気になったことがあったら覚えといてくれ』
確かに、ここ数日まともに帰ってきていない降谷には録画をみる時間など無い。沈黙した携帯を片手に、ヘッドフォンは片耳から外したまま澪はテレビのリモコンを弄った。
丁度女性アナウンサーがサミット会場の紹介をしている。パソコンの方は一旦閉じ、テレビに集中しようと澪は携帯を持った手でヘッドフォンを抑えつつ机からテレビ前のソファへと移動した。放置してある胡瓜は、まぁ後で食べよう。
施設の内装や警官の警備に触れつつ明るい声で会場が紹介されているのを眺めながら、なんとはなしに先程通話するまで朝からずっと放置していた携帯の画面に触れた。通知ランプが光っているのが目に入ったのだ。
新着メールが一通。哀からのそれにさっと目を通すと、博士が新しくドローンを作ったのだとかで、今日は少年探偵団のメンバーにお披露目するのだそうだ。今頃は丁度遊んでいる頃だろうか。
高度一万メートルでも操縦できるというその性能をみれば随分と優秀な発明だと思うのだが、哀曰く「エベレストも登った気になれるとか言って気味の悪い笑い声あげてるのよ」とのこと。相変わらず彼女の毒舌は健在らしいと思わず笑みが零れる。
『番組の途中ですが、たった今入ったニュースです』
この忙しさが落ち着いたら、また哀をお茶に誘おう。彼女はポアロには来たがらないから、駅前に新しく出来たラテアートが話題の喫茶店に足を延ばすのもいいかもしれない。澪自身はあまり阿笠邸には近付きたくないし。
そんなことを考えながら見ていたニュースに突如緊張が走った。はくちょうのサンプルカプセルが太平洋上へと着水する仕組みを説明していた筈の画面は慌ただしいものへと切り替わり、神妙な顔をした男性アナウンサーが渡されたばかりなのであろう原稿を読み上げている。
「……え、」
澪の手から携帯が滑り落ちた。
『来週東京サミットが行われる国際会議場で、先程大規模な爆発がありました』
20180503