『ハァイ、聞いたわよ。バーボンのお世話になってるんですって?』
「もう超絶お世話になってます。無茶ぶりで振り回してくるどっかの誰かさんたちと違ってバーボンさんほんと紳士」
『絆されてんじゃないわよ失礼な子ね』
無茶ぶりしてる自覚はあるんですねという言葉は賢明な判断で飲み込む。
ふかふかな布団に暖かな部屋、ベッドサイドには飲み物と消化に良い軽食。降谷によってプロデュースされたなんとも居心地のいい空間で、腹の傷を摩りながら澪はまったりと電話していた。
言っておくと澪からかけたわけではない。3回くらいは無視したもののベルモットからの着信がしつこかったのだ。
仕事の話なら澪だってちゃんと出る。バーボンから連絡がいった今回の件についてのからかいであることが見え見えだった為非情に話したくなかっただけだ。あまりにもしつこいので諦めたが。
ちなみに降谷と話し合った結果、組織の下っ端に襲われたカルーアをバーボンが助けて世話をしているということにした。海の藻屑となった設定の下っ端は日本警察のお世話になっている。
『調子はどうなの?』
「問題ありませんよ、掠り傷ですし。なによりバーボンさんのアフターケアが完璧すぎて」
『しっかり借り作ってるじゃない。噛み付かれてるんじゃなかった?手懐けるとか言ってたのに大丈夫なわけ?』
「まぁ頭上がんなくなったのは痛いんですけど。その分向こうの油断も誘えますし、何か臭ったらすぐ報告しますよ。ジンさんバーボンさんのこと未だ疑ってるでしょう?丁度いいんじゃないですか」
『あら、やっぱり怖い子ね』
くすくすと笑う大女優様はご機嫌麗しいようでなによりだ。こちらとしても思ったより会話が穏便な方向に向かってなによりである。
これがジン相手だったら小言の百や二百じゃ済まなかっただろう。額をゴリゴリやられる覚悟くらいはしておかなければなるまい。もちろん素手ではなく黒いあの物体でだ。
そんなことを考えながらベルモットと談笑を続けていると、不意に伸びてきた褐色の手によって携帯を奪われた。空になった手を何か確かめるように数度握り込まれると、代わりとでも言わんばかりに温かいマグカップを渡される。
「ベルモット、あまり長話しないでいただけますか。折角いれたココアが冷めてしまう」
『あらバァボン。随分カルーアにご執心じゃない?この子は私が先に可愛がってたのよ』
「それはすみません。貴女と違って素直で可愛らしいですからね、つい構ってしまうんですよ」
『揃って失礼ね貴方たち』
マグカップの熱が指先からじんわりと伝わる。ちらりと降谷を見上げると飲んでいていいと軽く手を振られたのでありがたく口をつけた。程よい甘さと温かさが腹の中に落ちていく。
ココアなんて久しぶりだ。思わず口許が緩むと同時、くしゃりと軽く頭が撫でられる。少し乱れた前髪を整えるようにすかれるのはさすがに気恥ずかしい。
『まぁいいわ、可愛い子猫ちゃんの声も聞けたし。メールの件は来週までによろしくって伝えといてちょうだい』
「はいはい。まだ本調子じゃないんですから、あまりこき使わないでやってくださいよ」
『……貴方カルーアの父親にでもなったの?』
「そこは恋人と言われた方が嬉しいですねぇ」
『冗談でしょ、胡散臭い男に靡くような子じゃないわよ』
「おや手厳しい」
肩を竦めた降谷はそのまま通話を切り、携帯を差し出されたので中身が三分の一程度に減ったマグカップを置いて受けとる。
見ればいつの間にか薬と白湯まで用意されていた。安室の時から思っていたが、本当に気遣いの男だ。
「メールの確認はそれ飲み終わって薬飲んでからな」
「はぁいお父さん」
「誰がお父さんだ」
20191109