預ける心の一つか二つ
返礼祭が近付く何かと忙しい時期。人の良い嵐はKnightsだけではなく、友人であるみかの助太刀もしている様で、目に見えて多忙な事が理解出来る。それが解りきってるから逆に相談なり何なりと話題を持ちかけられない。無理し過ぎていないかと、抱いている心配心は、直接本人に伝えられない素直じゃない自分の性格に溜息しか出ない。一応、これでも公表はしていないとはいえ付き合ってはいると言うのに。
「折角の幸せが逃げちゃうわよォ?」
突然掛けられた声に心臓が跳ね飛ぶ程に高鳴る。張本人である嵐自身がベンチの側に立っていた。両手に持っていたチルドカップの一つが薫子へと差し出される。おずおずと受け取ると、にこりと笑みを浮かべた嵐はそのままベンチへ腰掛けた。スリーブ越しに伝わる温かな熱がひんやりとした両手にじわりと溶ける。
「あ、有難う」
「どういたしまして」
気を遣われてしまった。
先程で巡っていた思考は嵐を目の前にした瞬間から見事に吹き飛んだ。何も言葉を返せないまま、ちまちまと少し甘いコーヒーを口にする事で場を濁す。同じようにコーヒーを口にする嵐の伏せられた横顔は変わらず綺麗だが、どこかいつもと違う疲労を感じる。
「薫子と話がしたかったのよ」
「私と?」
「そう。相談事とかきっとあるんじゃないかって思ってねェ」
正にその通りである。そうでも理由を付けないと話すきっかけが作れないことを十分に理解されている事の嬉しさと相反する情け無さ。
「あのさ、返礼祭の事なんだけど…」
その優しさに甘えて切り出した話題。今ならたった二人きりだし、許されるんじゃないだろうか。半分程になったコーヒーを両手でしっかりの握りしめて、嵐との距離を詰める。そのまま肩に寄り添うように身体の力を嵐へ預けると、止まっていた思考から自然と言葉が流れていった。