いつしかもはや


どうせ、ただの暇つぶし。
シャツの下から差し込まれる手はひんやりと冷たい。捲られていないのが救いか、傷痕には気付かれていない。腹部をするりと撫でられる、得難い感触に息を止める様、口を固く紡ぐ。
「…何で抵抗しねぇの?」
紅い瞳が怪訝そうな表情を浮かべる。気まぐれで組み敷いた奴が何を言うか。
「遊び相手、だから」
そう、定められた役目。
こういう行為は今も、勿論前世でもした事はなかったが、零が望むのであればこの身を差し出す覚悟はしていた。例えそれがただの暇つぶしだったとしても。
「遊び相手だったら、嫌でも受け入れる訳か?」
「それが俺の役目なんでしょ」
零の眉間に皺が寄る。返答を間違えたとは思っていない。役目を果たせないのであれば、零の側にいる意味なんてない。
一度、大きく溜息をついた後、零は手を引っ込める。行き場を無くした手は相良の頬に伸び、そのまま両頬を摘んだ。
「変な解釈してんじゃねーよ」
予想していなかった零の行動に、頬を摘まれている事もあって返す言葉が出なかった。口を開こうとする度に指先に軽く力を込められるのが地味に痛い。此方に喋らせる気がないのが目に見て分かる。
「俺はそういうつもりでお前の事を見てるんじゃねぇから」
だったらさっきの行為は何だったのか、と目線で反論する。言いたい事が伝わったのか、零は何かを企んでいる様な笑みを浮かべた。右頬から離された手はそのまま相良の口元を覆い隠す。顔を寄せてきた零の瞳が目線を逸らせない程、真っ直ぐと射抜く。
「なぁ、相良」
零の思考が読めない。彼は一体何を求めているのか。触れようとすれば、触れて捕まえられる距離にいるのに心が遠い。