きみの感触を隠す


複数の薬を服用しているのもあり、まだ体に馴染んでいないのか、思考が淀む程に体調が悪い。吐き気を催し、ズキズキと痛む頭を抑え階段の陰に隠れる様に廊下に座り込む。立つこともままならない。物音もしないので近くに人はいないであろう。少し目を瞑れば回復する筈。零に何も伝えず教室を出て行ったが、別に探しには来ないであろう。一度、大きく息を吐き瞼を閉じると、ゆっくりと意識が遠のいていく感覚に思考を手放した。

何も言わず教室を出て行った相良。チャイムの音を聞きながら校内を探す。探されたくないから、勝手にいなくなった事は理解しているが。最近の体調の悪さ加減を見ていると、そこら辺で倒れている可能性すらある。
廊下を突っ切った先の階段付近、丁度死角になる所で探し人を見つけた。座り込み、顔を隠している所為で表情は読み取れないが、付近にいるのに反応がないところを見ると座り込んで寝ているのだろうか。こんな所で寝ていられても体調が悪化するだけなので、保健室を嫌がるのなら無理にでも連れて帰るが。そう思いながら、相良の両肩に手を置く。
「相良」
名前を呼ぶとぴくりと体が動く。声に反応して相良はゆっくりと顔を上げる。
「…"三郎"?」
相良の口から出た名前は、人脈の広い零も知らない全く見知らぬ人物の名前だった。寝惚けているのか、それともまだ夢から夢から醒めきっていないのか。虚ろな相良の瞳と視線が交わる。
「ごめん、うたた寝してた。次、実技だっけ。三郎も早く行かないと困るよね、俺も準備出来たら行くから」
普段の相良らしからぬ"兄"のようである饒舌な口調。決して零をからかっている訳でもない、演技をしている訳でもない。今、相良は誰と話している、誰が見えている?零ではない、"誰か"と。
「だから三郎は先に」
「相良!!」
強く名前を呼ぶ、張り詰めていた空気が声により静寂を取り戻す。
「……え、零?」
瞬間、相良の表情が変わった。いつも通りの知っている顔だ。瞬きを数回した後、漸く自分が置かれている現状に気付いた
「なんで此処に」
「…帰ってこねぇから探しに来たんだよ」
両肩に置いていた手を退かし、相良の両手を掴むと勢い良く引っ張ると、反動で相良も立ち上がる。
「出掛けんぞ」
反論も無く、こくりと相良は頷く。
先程垣間見えた顔に、未だ心は落ち着きを取り戻していない。それこそ出会った幼少期から今まで遊び相手の立場として殆ど一緒だったというのに、全く見知らぬ相良の顔に、言葉に、全てが揺さぶられる。追求したい様で、したくないどっちつかずな心境を誤魔化す為に、掴んだ手に一層力を込めた。