純みたる心


少し遠出をした休日、出先でカメラを構えた紫音がシャッターを切る。良い被写体を見つけたのか綻ぶ顔がレンズを除くと一瞬で真剣な眼差しに変わる。そのギャップは何度見ても良い、と素直に思える。夢中になってごめん、と申し訳そうに謝る紫音に対して笑みを返す。そんな些細な事、楽しそうな紫音の笑顔を見られるのなら全て帳消しだ。

「そういえばさ、最近俺の事撮らなくなったね?」
と、一言告げた後。これはもしかして嫉妬にあたるのだろうか、と自分の思考に思わず驚く。
確かに、親しくなってから紫音が写真を撮る事が好きだというのは知っていたし、幾度となく被写体になった。それは別に嫌ではなかった、寧ろ彼の被写体として、写真に収めて貰えることは少なからずとも薫にとっての楽しみになっていた。その対象が、もしも自分じゃなくなったのなら、確かに物寂しさは感じてしまうが。それでも、これはやはり嫉妬か、独占欲の現れでもあるんじゃないだろうか、と発言に後悔をする。

薫からの思わぬ問い掛けに少し驚いたのか、きょとんとした表情を浮べた後、紫音はカメラを見つめる。
「レンズ越しに見る薫も勿論好きだよ、かっこいいしキラキラしてるし。今、この一瞬だけは俺の視界には薫しかいないー、っていうかね」
ぽつり、ぽつりと紫音が言葉を紡ぐ。否定でもなく、素直に薫を肯定する言葉。
「でも、それやとなんか勿体無いなって、最近思うようになったんだ」
「…勿体無い?」
視線を上げた紫音は真っ直ぐに薫を見る。そこ瞳は清く、澄んでいた。
「折角、自分の目で薫の事見れるんだもん、レンズ一枚挟んじゃうなんて勿体無いよね」
嬉しそうな声色でそう告げた紫音はにこりと笑みを浮べた。情けない嫉妬の様な感情への答えが、あまりに素直で、眩しくて。それが自分に向けられていると思うと嬉しさが込み上げる。
「だから、これからはカメラ越しじゃなくて俺の目で、薫の事見ていたいな」
じわり、と心に言葉が響く。綻びそうになる顔を、感情をぐっと手を握り抑える。このまま衝動的に抱き締めてしまってもきっと今日だけは許されたい。そう思った時には両の手は彼の肩へと伸びていた。