すれちがいラヴァーズ


「零のそうやって年長者です大人びてます態度されんの一番嫌なんだけど!」
「なんじゃとー!?あくまで傍観者です達観してます気取りの素直じゃない相良はどうなんじゃ!」
「んな風に演じてないし!これが俺の普通だから!」
「とか言って口調が崩れておるぞ!仕方ないのう、全くもって可愛いやつじゃ!」
「だからそれ、話聞いてる!?」
教室中に響き渡る零と相良の口喧嘩には流石の三年生も耳馴染みになっていた。本人達にとっては至って真面目で且つ、重要な問題かも知れない。周囲からすれば他愛の無い話題の応酬から、親しさの見せつけあいから発展した痴話喧嘩の様にしか思われていない模様。

その中で、3-Aまで届いている声に反応し、わざわざ足を運んでくる親切極まりない生徒が一人。チョコレート色のセーターを身に纏い、緩く纏めた髪を揺らす嘉手納紫音が心配そうに扉から顔を覗く。
「れーさん、さがくん」
紫音の呼び掛けに答え、言葉の応酬は一時中断する。零はいつも通りの柔らかな雰囲気を装うが、相良はまだ言い足りないのか張り詰めた空気を維持していた。
「お?おぉ、紫音くんか、どうしたんじゃ?」
「隣まで声聞こえてたからちょっと気になって。喧嘩するぐらいなら甘い物食べよう!うん!チョコがええよ!チョコ!」
「いや、何で唐突にそうなる?」
紫音がチョコキチである事は有名だが、流石の唐突な話題すり替えには相良も空気を壊してツッコミを入れざるを得ない。
「だってチョコ食べたら落ち着くからさ!丁度バラエティーパックがあるんだよね、だからこれ二人にも」
「はいはい、紫音はチョコを布教しない」
チョコレートに対する情熱を語り始めた紫音の後ろにすっと羽風薫が姿を現わす。一目見ただけで現状況を把握したのか、何事も無かったかの様に紫音の両肩に手を添え、そのままUターン。
「痴話喧嘩は程々にね、お二人さん」
一言、余計な。否、図星な言葉を残し二人は姿を消した。あまりに自然な一連の流れ、側から見ても親友以上と理解出来る薫と紫音だから出来るであろう空気感に当てられた零も相良も何も口出しする事もなく。

途端、数分前の自分達の些細な事で起こった口喧嘩を思い出す。嗚呼、何てくだらない。お互い後輩達の前では余裕ある態度で年上ぶりたい似た者同士、結論としては例え実年齢がどうとあれ、前世や過去がどうとあれ。今、この場では対等でいたいだけなのに。
「…何やってんだろうね、俺達」
「…我輩もわからんわい」