致死量の彩度


するり、と頬に触れた手に一瞬きょとん、とした表情を浮かべた聖はくすぐったいのか直ぐ愛おしそうに目を細める。
そのままいつものように髪を撫でればいいものの、何故か、その時だけは彼女の唇へと人差し指が寄せられた。
薄く開いた唇を指でなぞる。
「お兄ちゃん?」
呼ぶ声にハッとなり、唇から指を離す。仄かに温もりが残るその右手を力強く握り締める。俺は一体、何をしようと。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
無垢な瞳が真っ直ぐと自分自身を射抜く。自分を、本心から心配する声、表情。全て、全てが自分にだけ向けられたもの。
駄目だ、駄目だ。
彼女は俺の妹。
要の大切な、妹。
要の、俺の、大切な。
「お兄ちゃん」
聖の小さな手が、握りしめた自分の手に重なる。包み込めないその余白すら愛おしさが込み上げる。
「…聖」
十条聖。
俺をお兄ちゃんと呼び、愛し、慕ってくれる。
俺の、俺だけの、大切な。