被写世界の深度


くらり、と一瞬視界が歪んだ。疲れだろうか、確かにここ最近は校内活動に留まらず、外部でのイベントに参加する機会が増えた為、多少なり寝不足なところはあった。それでも活動に支障をきたさない程度に、だが。
隣を歩く零が、何か話題を持ち掛けている事はわかるが、言葉が脳裏に届かない。とりあえず相槌をうち、それとない返事を繰り返す。察しの良い零なら直ぐにでも気付くかも知れないが、一時的に凌げればそれでいい。

零の後を追い階段を数段登ったその瞬間。
あ、これはやばい。
直感的に感じ取ったが、時既に遅し。先程より強く歪む視界に意識が暗闇へと遠のく。次の段を上がろうとした右脚は地に着く事はなく、バランスを保てなくなった身体はそのまま背中からゆっくり、後ろへと引かれる。
「っ、相良!!」
先を行く零が振り返る。閉じゆく瞳で捉えた零の表情は、今まで見た事のないような表情を浮かべた。何て顔してんだ。
咄嗟に右手を伸ばしたが、そこで意識は途絶えた。