夜はお静かに


「ママ、えほんよんで」
ずいっ、と差し出された一冊の絵本。その向こうには期待に満ちた表情の璃々。その絵本を受け取り、ソファーの隣に一度置く。
「いいよ、おいで」
小さな身体に手を伸ばす。宙に持ち上げられた璃々の身体はぽすん、と音を立てて相良の膝上に収まった。楽しそうにこちらに背中を預けてくる体温が心地良い。傍らに置いた絵本を手に取り、璃々の目の前に広げる。平仮名の羅列を、一言一句璃々に伝わる様にゆっくりと声に出していく。
細やかな日常がとても新鮮だ、親という存在からのこういう経験は自分の幼少期の記憶にはない、に等しいと言える。その分、出来るだけの事をしてあげたいと思う。

「…っ、尊い……」
扉が開いたと思うと、飲み物を取りに行っていた零が膝から崩れ落ちていた。溢していないからまぁ、良し。生憎、璃々は零の存在にまだ気付いておらず、絵本に夢中の様子なのでここは璃々を優先するとしよう。