いとしめぐしの檻にゐる


重たい瞼をゆっくりと持ち上げると浮上する意識。いつの間にか寝てしまっていたのか。熱に浮かされていた頭はまだ冷め切ってはいないが、それよりも暖かく包まれているようなぬくもりは安堵感を覚える。
「…目、覚めた?」
頭上から降り注ぐ声に顔を上げる。主人である凪砂はにこり、と優しい笑みを浮かべていた。
「なぎ、さ…さま…?」
瞬間、血の気が引く。同じベッド、布団の中。飛び起きた矢先、視界に捉えた何も身に纏っていない凪砂の姿。同様の姿である自分が何をしてしまったのか、嫌でもわかる、わからなければならない。αの本能、発情期。そんな事、何一つ言い訳にもならない。
「あ…、わ、私、凪砂様に…」
「そのままだと風邪引くよ」
身体を起こした凪砂はロッティのメイド服では無く、自分のシャツを手に取り、肩に掛ける。小さな身体はすっぽりと包み込まれてしまう。一つ、一つ、丁寧に止められていくボタン。普段なら全力で遠慮されてしまう行為だろうが、反論すらないところを見ると、ロッティが余程動揺しているのが凪砂も伝わる。
「ご、めんなさい…」
謝罪と共にぼろぼろと涙が溢れる。取り返しのつかない事をしてしまった。謝っても許される問題ではない。こんな情けない姿を晒してしまうのが嫌で、申し訳なくて、凪砂を見ることすら出来ない。
「…どうしてロッティが謝るの?」
悲しそうな声色。言葉を返したいのに止まらない涙も合わさってうまく思考が定まらない。
「それにこれは、私が望んだ事だから」
しっかりと、そう言い放つ凪砂は自分のうなじにそっと触れる。まだ血の滲むうなじには、小さな歯型がくっきりと記されていた。