04

ふわふわと揺れる感覚に、パチッと目が覚めた。木目の天井が目に入り、周りをゆっくり見渡せば、少し薄暗く、机や椅子といったインテリアが置かれている。机の上にはいくつもの小瓶が並べられていた。

鼻の奥にツンとくる薬品の匂いを感じて、自分の身体に視線を移せば見慣れない服を着ていてベッドの上に横になっていた。どうやら、室内らしいが全く見覚えのない部屋に私は困惑する。

なんでこんなところにいるんだろう、と思い巡らせれば、気を失う前の光景が映画のフィルムみたいに頭の中に流れていった。

「―――っ!」

そうだ、私はジャングルのなかで恐竜に襲われていたんだ。思い出して、ヒヤリと悪寒がする。二頭目の恐竜が現れたあたりから記憶が曖昧だが、こうして生きていると感じられれば助かったんだなと安堵した。

なんとなく頭の整理がついたところで、のそりと起きると横にある扉が開く。あたたかい日差しと一緒に誰かが部屋へ入ってきた。

「あ! 気が付いたんだな! 気分はどうだ?」

弾んだ声で話しかけてくれた人物を見やるも思ったより視線を下げることになる。

目の前には、ピンクの大きな帽子が印象的な小さいもこもこの動物がそこに立っていた。きゅるんとしたおめめが私を覗く。

なんというか、とってもかわいい。ぴょこぴょこと音を立てて歩み寄ってくる姿がこれまた可愛かった。

「だ、大丈夫です」
「おう! 顔色もよさそうだし、とにかくよかった!」

私の身体のあちこちを視診して、もこもこの毛玉は、ほっと一息をついて安心したようだ。そんな姿をまじまじと見てみる。何の動物だろう、というかこの子言葉を喋っていなかっただろうか。

そう不思議に思ったが、動物の顔をもったよく喋る英霊の顔が頭に浮かんでからは、その疑問がすうっと、どこかに消えていった。

「どうした? やっぱり具合悪いのか?」
「あっ、いえ! そんなことないです!」
「そっか! ならおれみんなを呼んでくるからお前はここで待っててくれ!」

じっと黙っていた時間が長かったのか、ピンク帽子の子がこてんと首をかしげて私の顔を覗く。

そんな姿も可愛かったが困った顔をさせてしまい、申し訳なく思った私は慌ててブンブンと首をふる。そうすれば、ピンク帽子の子は笑顔を浮かべて扉のほうへ向かっていった。

ピンク帽子の子が扉を開けて、大きな声で呼びかけている。ところで、”みんな”ってなんなんだろう。何が何だかわからないまま事が進んでいるようで頭がついていかなかった。

「女の子が目を覚ましたぞー!」

そんな呼び掛けから、数秒して扉のほうから賑やかな声が聞こえてきた。なんだか胸がどきどきする。何人かの足音が重なってそちらを見れば、いろんな顔ぶれがそこにあった。

わぁ、外国人だ、と心の中で一人興奮する私だったが、いきなり肩を掴まれ目の前が、”麦わら帽子”でいっぱいになり呼吸が止まりそうになる。鼻すれすれの近さで思わず声が上ずった。

「おめェ気が付いたんだなー! 早く目ェ覚めねェか待ってたんだぞ!」
「は、はい…すみません…」

軽く肩をゆすられて、視界がゆらゆらする。わ、わりと苦しい。

「オイ、やめろよ! 頭なんか揺らしたらまたひどくなるかもしれないだろ!」

視線を外せば、ピンク帽子の子があわあわと麦わら帽子のお兄さんのことをなだめているのが見える。

対面している麦わら帽子のお兄さんは、目が嬉しくてたまらないというようにキラキラ光っている。その姿はなんだか幼く見え、大きな体をした少年みたいだ。

けれど揺らし攻撃はまだ続いていて、あうあう、と耐えていれば麦わら帽子のお兄さんの顔が離れていった。

「おめェは怪我人になんつう扱いしてんだ!」

今度は、金髪のお兄さんがさっきのお兄さんの首根っこを引っ張って、正面に立つ。「たっく…」と息を吐くと金髪の隙間からこちらに視線が向いた。

「お怪我はありませんか、レディ?」
「…えっ!?」

慣れた手つきで金髪のお兄さんは、私の手にそっと触れ手を重ねる。何をされたか理解した瞬間、ボンっと湯気が立ったヤカンのように顔が熱くなった。

おそるおそる覗き込めば、ぐるぐるとした眉毛が気になるが、おそろしく整った相貌に相まってその甘い眼差しに頬の赤が増す。

今まで受けたことがない紳士的な立ち振る舞いに私は「あ」とか「う」という言葉が漏れ出すだけで応えられなかった。

そんな私を見て、目の前のお兄さんは一瞬ぱちくりと瞬きするも、目尻を細めてにんまり微笑する。もう耐えられない、と泣きべそをかきそうになったとき助け舟が出された。

「いきなり話しかけられてその子も困ってるんじゃない?」

凛とした、でも優しさが含まれている声音に安堵感があふれる。声の主を探せば、背が高くグラマラスな容姿に艶のある黒髪がさらりと揺れた。

「ロビンちゃん…! そうだよな、いきなり悪かった。ごめんよ?」
「そんな! こちらこそすみません…!」

この状況を助けてくれたロビンさんというとても綺麗なお姉さんに感謝しながらも、眉を下げて謝ってくる金髪のお兄さんに対して、悪い事していないのに申し訳ない、と罪悪感を感じた。

なんとなく気まずさを感じて、「どうしよう」ときょろきょろ周りを見渡せば、斜め上から声が降ってくる。

「なあ、おめェ名前なんていうんだ?」
「えっ、あ、わたしは、なまえっていいます」

いきなり名前を尋ねられた私は、あたふたして自分の名前を口にする。

「ふーん、なまえっていうんだな。おれはルフィ、海賊王になる男だ!」

私の名前を聞いて満足したのか、麦わら帽子のお兄さん、もといルフィさんはまるで太陽のようなまぶしい笑顔を浮かべたのだ。

ついでとばかりにピンク帽子のぬいぐるみみたいな子はチョッパーさん、金髪の美形のお兄さんはサンジさん、背の高い綺麗なお姉さんはロビンさんと名前を教えてもらった。

私を助けてくれた人たちなのだろうか、雰囲気がとても穏やかで、さっきまできつく結ばれていた口元が綻んでいく。にししっと笑うルフィさんを見ていると次第に心が落ち着いてくる。

そんななか、少しぴりりとした声色で、一瞬だけその場の空気が入れ替わる。

「他にもメンバーがいるんだけれど、部屋を変えてお話できないかしら?」

ロビンさんから言われた言葉に私は、「はい」と頷いて、移動しようとする彼らのあとをついていくことにした。


04. 目が覚めて

(ああ、なまえちゃん大丈夫かい?)
(ぎゃっ、ほ、ほんとに大丈夫です! すみません!)
(…そう?)
((ひぃぃ…!! 近い! 顔が良いの暴力だ〜…))

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