05

ルフィさんたちについていき、さっきの部屋よりも広い部屋へ案内された。

部屋には、大きなテーブルに椅子が傍に配置され、近くのスペースにはシンクや調理道具が目立っている。

ここはキッチン兼ダイニングなのかな、とぼんやり予想する。

サンジさんが椅子をひいてくれたので座らせてもらったのだけれど、私が今座っている席は所謂お誕生日席で、目の前の人たちの視線をたくさん浴びることになり、とてもドギマギした。





ここに来るまで、私は驚きの連続に出くわしていた。

まず、私がいる場所は”船の上”であったこと。扉を開けた先に水平線があったときは目を見開いた。

大きな帆やその柱に芝生の生えた甲板など、次々と目を移しては驚きの声を上げる。

「なんで船に…」という疑問をもらせば、「だって、俺たち海賊だし」とあっけらかんとして言うのだ。その言葉を聞いた私は、目がほんとうに飛び出していたと思う。

今思い出せばかなり間抜けな姿を見られたと恥ずかしくなってきた。

その時の挙動不審な私の姿が、やっぱり可笑しかったのかルフィさんは声高らかにゲラゲラと笑っていたのを覚えている。

そして、部屋に入り座った矢先、ぞろぞろと音を立ててロビンさんが言っていた他のメンバーの方々が入ってきたのだ。

私の近くの席から、ナミさん、ウソップさん、フランキーさん、改めて、チョッパーさん、サンジさん、ロビンさん、ルフィさんと自己紹介してもらい私も「なまえです」と名のる。

最後に名前をぶっきらぼうにいったゾロさんは、少し怖いなぁという感想を持ってしまった。

再び自己紹介をされ、さきほど言っていたルフィさんの海賊王の言葉の意味がやっと分かったけれど、だからか、”海賊”と一緒にいる自分の身が少し心配になった。

―そして、冒頭の状況に至る。

こうして集まり、話し合うのはいいが、気絶した後のことが分からなかった私に、オレンジ色のくせっ毛が特徴のナミさんが、開口一番に順を追って説明してくれた。

まず島を探索中、恐竜に襲われていた私を助けたこと、気絶していて無人島にほっとくことも出来ず船に乗せて出港したこと、血まみれだったためチョッパーさんに診てもらったこと。

話を聞けば、恐竜から助けてくれたのはなんと、あの強面なゾロさんだった。

案外、人は見かけによらないな、と少し失礼なことを思い浮かべてしまったが、感謝の言葉を言いつつ、あとできちんとお礼をしなければという気持ちにかられた。

「それで、聞きたいことが結構あるんだけど…いいかしら?」

頬杖をついて問いかけてくるナミさんは、じいっと大きな目で見てくる。別嬪な分、とても迫力があって思わず、すごんでしまい私はおどおどと答えた。

「は、はい」
「まず、あんたは何であの無人島に一人でいたの?」

一つ目の質問に、どう答えればいいか迷った。私があの島にいた理由は、異なる世界からレイシフトしてきたからである。

それを正直に言えば、話がこんがらがるだろう。そこで事実とは少し違うことを述べることにした。

「実は、他の船に乗せてもらっていたんですが、あの島に上陸した後はぐれて置いてかれてしまって…」

そう私は、途方に暮れた顔つきで呟くように話す。嘘をついてしまうことに胸が痛くなったけれど、当たり障りのない答えを出していく。

「それは気の毒だなぁ、でもなんで船なんかに乗せてもらってたんだ?」

すると、長い鼻が特徴のウソップさんが憐憫の眼差しを送ってくる。けれど、今度は船に乗った目的が何だったのか気になったようで首をかしげていた。

「えっと…趣味でいろんな地域を巡っているんです」
「へェー! 女ひとりなのによくやるなぁ! いったい何モンだよ」
「そんな、ごく普通の一般人ですよ」

一人旅をしていることに感心した声を出すウソップさん。思わぬところで褒められて、私は謙遜するように手をブンブンと振り、はにかんだ。

すると、今までずっと黙っていたゾロさんがこちらに鋭い眼光を飛ばしてくる。ビクッと驚けば閉ざされていた唇が開き始めた。

「あの無人島で、コイツが一人で恐竜を倒したところを見た」

その話を聞いた皆が驚きの声をあげる。

「どうやって倒したのか仕掛けはよく分からねェが……”ごく普通の一般人”ってはずねェだろ」

ゾロさんは疑い深い表情で問いかけてくる。その雰囲気は尋問をされているみたいで、私はビクビクと委縮する。

前言撤回、やっぱりゾロさんは怖い人だ。

けれど、ゾロさんが疑うのも一理ある。ここは下手な嘘はつかずに正直に答えようと思い、私は切り出した。

「……魔術師なんです」

そう事実を教えれば、目を見開いて驚いている人や胡散臭そうな顔で見てくる人など様々な反応が返ってきた。

「魔術師ってことは、おまえ魔法が使えるのか!?」
「スゲェ〜!! なんか魔法やってみてくれよ!」
「ビームとか出せるのかっ!?」

順番に、ウソップさん、ルフィさん、チョッパーさんが”魔術”に食い気味で座っていた椅子から勢いよく立ち上がりテーブルに手をかけて聞いてくる。

「えっと、あの……盛り上がってるところ申し訳ないんですが、今はそういうのできないんです」

キラキラと目を輝かせて期待している彼らに水を差すようで罪悪感を感じながら、私は眉を下げる。そう伝えると、彼らは風船がしぼむように落ち込んでしまった。

一方、私の話を真に受けていなかった人たちは、怪訝そうな表情を浮かべている。

弁解するようだったけれど、疑われる視線が居心地悪いので慌てて補足した。

「魔術師といっても、ほんのひよっこで……少ししか魔法が使えないんです」
「なんだ、そんなにすごかねェんだな」
「ううっ、期待に応えられなくてすみません…」

うなだれていた様子でルフィさんは、口をとがらせる。ストレートな物言いに少し胸が痛くなり私はしょんぼりとしてしまった。

「魔術師って冷酷非道という噂を耳にしていたけど、彼女見てるとその限りではなさそうね」

そんな様子を眺めていたロビンさんがクスクスと肩を揺らして微笑を浮かべている。

そう、魔術師はロビンさんが言うように全員ではないけど、大体が目的のためなら手段は選ばない人が多い。

そう思えば先ほどのロビンさんの言葉は私を信用するに値すると思ったからなのか。

すると、水色の髪型が特徴の人が視界の端でちらついた。

「まあ、オメェさんが魔術師かどうかは置いといて、これからどうするんだ」

サングラスを指で押し上げたフランキーさんは私にそう問いかけた。

私は「あ」と声をもらした。いろいろ話をしてきたが、たしかにこれからどうしよう。

目的があってこちらの世界に来たけれど、向こうと連絡が取れなくなって、今は動けない状況だったと困惑する。

困った顔をしているだろう私をルフィさんたちは、ゆっくり答えを待ってくれている。

助けてくれたうえに体調を診てくれたこの人たちは、野蛮な海賊とは思えないほど親切だった。

あの島でも探していた霊脈地にさえ辿りつければきっとカルデアと通信が繋がるはず。どこかの島に降ろしてもらえればあとは何とかしよう。

そんな優しい海賊の方を利用するようで少し心が痛むけれど、私は口を開いた。

「…あの…助けてもらったうえで図々しいかもしれないんですけれど、次の島まで乗せてもらえないですか…?」

そう、消え入りそうな声が出てくる。もし、良い答えが返ってこなかったらどうしよう、と声が震えた。

「おう、いいぞー」

対面する席に座っていた人の麦わら帽子が前後に揺れる。顔を見やれば、にししっと歯を見せて笑ってた。

「拾っちゃった責任もあるしねー」
「言われずとも、送っていこうとは思ってたぞ」

ナミさんがふーっと息をつく。続けてチョッパーさんが、安心させてくれるようにそう言ってくれた。

どうやら私の心配は杞憂で終わったみたいだ。胸に手をおろして、ほっと息をつく。「よかったあ…」と呟けば自分のこわばった顔が緩んでいくのを感じる。

緊張がとけて、身体の力が抜ければリビングにギュルルル…と私のお腹の低音が響き渡った。

「あっ…ごめんなさい」

盛大なお腹の音を聞かれた私は恥ずかしくて顔が真っ赤になった。あまりの恥ずかしさにうつむいていると声がかかる。

「腹減ってたんだね、良い時間だしそろそろメシでも作るか」

クツクツと肩を揺らして可笑しそうに笑うサンジさん。おずおずと覗けばサンジさんは立ち上がりそのままキッチンへと向かった。

「そうね、話も大体済んだし一回お開きにしましょ」

「解散!」というナミさんの号令で動き出す皆さんに私も立ち上がる。

「あの、ありがとうございます! これから少しお世話になります!」

そう、ぺこりとお辞儀して大きな声で言えば、みんながこちらに顔を向けてニッと笑ってくれた。


05. 優しい海賊

(あ! そうだ、アンタそのままじゃ汚れてるからお風呂に入ってきなさい)
(わっ、すみません! この服借りたままで大丈夫ですか?)
(別な服貸してあげるから、ほら、行くわよ)
(は、はい!)

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