06

ナミさんにお風呂場まで案内してもらった私は、お言葉に甘えてお風呂を使わせてもらった。

お風呂場は、大浴場とまではいかなくとも、かなり広くて思わず「わあっ」と声を上げたほどだ。

温泉にきた子どものようにはしゃぎ、私は嬉々としながら体を伸ばして湯船を堪能した。

そして現在、心身ともにぽかぽかで船内を歩いている。

ナミさんから新しい服を借りさせてもらっており、それもシンプルなもので助かった。

私がもともと着ていた服のことを聞いたところ、恐竜の血で汚れてしまったから洗っているとのことだった。

なにからなにまで、お世話になっていて頭が上がらない。

そう思いふけながら、私はナミさんに案内された道を戻るように足を運んだ。

長湯をしたようで、夕日が水平線に飲み込まれていた。非日常的な景色の前に胸のときめきを感じてドキドキする。

海を眺めていると、ふと、お腹が空くいい匂いが風に運ばれて私のお腹の虫を鳴らした。

あっ、そういえばお腹空いてたんだった、と思い出せば空腹感が増す。

サンジさんがどんなご飯を作っているのか楽しみになり、顔が緩んだ。



*



「おー! なまえ! 先に食ってたぞー!」

リビングの扉を開くと、口いっぱいに食べ物を入れたルフィさんが私に声を掛ける。

他の皆さんもすでに席に座っていてテーブルに広がる料理を頬張っていた。

「あの、お風呂ありがとうございました」
「いいのよー、湯加減どうだった?」
「とってもよかったです!」

部屋に入りながら、お礼を言う私に反応して振り返ってくれるナミさん。

お風呂の温度を気にかけてくれたようで、よかったと伝えればニコッと笑ってくれた。

「ほら、なまえちゃんここに座って」

どこに行けばいいか迷っていると、気を利かせてくれたのかサンジさんが初めてここに来た時のように椅子を引いてくれた。

スマートな動作に、ほんとにサンジさんは紳士だなぁと感心してしまう。顔が良いから余計に様になっていてドキドキしちゃうよ! と心の中で叫んだ。

そういえばここにいる皆さんとても顔が整っているかも…。

1人つっ立っている私を不思議に思ったサンジさんの視線が再度向けられる。

「あっすみません!」

私は慌てて用意された席に座る。すると、サンジさんが綺麗に飾りつけされた料理をテーブルの上に出してくれた。

「わあっ…ありがとうございます」
「どうぞ召し上がれ、マドモワゼル」

本格的なレストランにありそうな豪勢な料理に思わず感嘆する。

丁寧に差し出してくれる人を見れば、マドモアゼルだなんて歯が浮いてしまいそうな台詞を口にしては、にこやかにしていた。

ここまでくると、私が恥ずかしくてたまらなくなる。

「魔法使いさん顔が真っ赤ね」
「こういうの慣れてないんです〜…」
「見れば分かるわよ」

右隣に座っていたロビンさんが私の顔を見て目を細めて笑っている。

慣れていないことを打ち明ければ正面に座っていたナミさんがズバッと切りすてた。

「おめェ分かりやすいヤツだよなァ」

男の人たちが食べ物の取り合いをしている方から声が掛かる。

そこには、誰にも渡すまいと手元のフォークにスパゲティを大量に巻き付けているフランキーさんがいた。

さっきから気になっていたのだけれど、視界の端でガチャガチャと激しいバトルが繰り広げられていて思わず「すごい…」と唾をのむ。

「アンタもあの中入る?」とからかってくるナミさんに私は全力で首を振った。

先ほど言われたフランキーさんの言葉に、そんなに顔に出てるかな?と思いつつも、私は手を合わせてサンジさんが作ってくれたご飯を口にした。

「おいしい…!」

噛み締めた瞬間、今まで味わったことのない味が口に広がって眉が垂れる。

サンジさんの作ったご飯は見た目だけでなく、味もほっぺたが落ちるくらい美味しかった。

「サンジさんすっごくおいしいです!」
「なまえちゃんの口に合ってよかった」

料理を作り終わり換気扇の近くで休憩しているサンジさんにそう伝えれば、満足そうな表情を見せてくれた。

「サンジのメシは最高だろ!」
「はい! 最高です!」

ルフィさんの言葉に続けて私は美味しいご飯を口いっぱいに頬張る。

ふと、カルデアにいた時のことを思い出しながら「エミヤさんのご飯ぐらいおいしいかもしれない」と呟くと、ウソップさんが反応した。

「誰だ? そのエミヤって?」

聞かれてしまっていたようで、私は「あっ」と口に手を当てる。どう説明しようかと、うーんと唸った。

「エミヤさんは、私の故郷の食堂でご飯を作ってくれている方です」

エミヤさん、とはカルデアで召喚された英霊の1人で、旅に出て戦う以外は職員たちに料理を振舞ってくれた方だ。

カルデアのことは伏せたまま、あながち間違いではないことを説明する。

「へー、故郷のね」
「他にも作ってくださる方がいるんですけど、一番おいしいのがエミヤさんのご飯で…」

エミヤさんのご飯を頭に浮かべながら、少し恋しくなる。

すると、チョッパーさんから声を掛けられた。

「なあ、なまえの故郷ってどこなんだ?」

そう聞かれ「日本です」と答えれば、食卓を囲んでいる全員の頭にはてなマークが浮かんでいた。

「ニホン…ってどこだ?」
「東のほうにある小さな島国ですよ」

チョッパーさんの質問に私も首を傾けながらそう答えると、ルフィさんの顔がぱあっと明るくなった。

「なんだなまえもイーストブルー出身か!」
「え、ええ、はい」

イーストブルーという言葉に今度は私が頭にはてなマークを浮かべた。

そういえば、ルフィさんたちは別世界の人たちだったのを思い出す。

私の故郷の名前を言ったって伝わらないし、こちらの地理を知らないので先ほどのやり取りに納得が付いた。

けれど、偶然に話が通じてしまったが、その方がちょうどいいのでそのまま私はイーストブルー出身ということにした。

「私たちも同じなのよ」

そうナミさんが嬉しそうに言う。詳しく聞いてみれば、この船の4人がイーストブルー出身だった。

サンジさんは”ノースブルー”というところの出身で、育ちが4人と同じということを教えてもらった。

イースト、ノース…というとこの世界は南北東西4つに分けられているのかな、と頭の中で整理する。

こちらの世界の情報をもう少し取り入れないと、と静かにため息をついた。

「それにしてもエミヤってやつのメシもいつか食ってみてェなぁ!」

いつの間に食べ終わったのかルフィさんは満腹そうなお腹をさすっていた。

「食ったばかりでそれかよ」とウソップさんからのツッコミが入れられる。

「エミヤさんほんとに料理上手で"お母さん"みたいなんです」

小言は言うけど世話好きなところも含めてエミヤさんは素敵な人、もとい英霊だった。

へーっと感心する声が耳に入り、自分のことではないのに、ふふんと鼻が高くなる。

男性だから"お母さん"と呼ぶと怒られることを冗談めかして言えば、からかうような目線が向けられた。

「じゃあ、料理上手な点で言ったらサンジも同じだな」

私の話を聞いて何を思ったのかウソップさんがサンジさんに茶々を入れる。

「ハァ?おれが"お母さん"なんてガラじゃねェだろ」
「あら、案外世話好きなところとか"お母さん"っぽいわよ?」

休憩し終わり、席に座るサンジさんが露骨に嫌な表情を浮かべて否定する。

すると、先ほどからニンマリと可笑しそうに笑っていたナミさんが横槍を入れた。

「ナミさんまで…勘弁してくれよ」

女性に対してあまり強く言えないサンジさんは困ったように眉を下げる。

「まあ、なまえがサンジくんのこと一番お母さんみたいって思ってるらしいけどね」

周りの皆さんのやりとりを1人傍観していれば、突然ナミさんからのとばっちりを食らい、びっくりする。

「え!私そんなつもりじゃ…!」
「ママーーー!!おかわり!!」
「誰がママだ!!オロすぞテメェら!!」

ナミさんが揶揄うものだから私は慌てて否定する。

けれど、みなさんのサンジさんをひやかす声にかき消されてしまった。

こんな顔もするんだ!と思うほど、今まで見たことのない形相で怒るサンジさん。

「ふふっ」

揶揄われる話題を出してしまってサンジさんに申し訳ないと思いつつも、この賑やかな食卓が楽しくて、いつのまにか声を出して笑っていた。


06. 世話焼きな人

(怒ってたのにちゃんとおかわり作ってあげてて、ほんとに優しいなぁ)

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