09

ウソップさんとフランキーさんのお手伝いが終わり、甲板へと上がった私はある一点を見つめて悩んでいた。

見つめる先には、船の塀にもたれかかって目を瞑っている緑色の髪の彼。

肩を上下に揺らしている様子から、お昼寝をしているようだった。

潮風に当たった緑色の髪がふわふわとなびいていて、とても絵になっている。

ぼーっとその様子を眺めていた私はハッとして頭を左右に振った。ちがうちがう!

無人島で助けてくれたお礼を直接言いたかったのだけど、その彼が寝ており少し声を掛けにくい状況である。

「ねぇ、あんたそんなとこで何してるの?」

どうしようか、建物の壁に隠れながら迷っていると後ろから声を掛けられた。

「ぎゃっ!?」

背後からいきなり声を掛けられて心臓が飛び出そうになる。

振り向けばそこには、ナミさんが立っていた。

「もうちょっとかわいい声出しなさいよ…『ぎゃっ』て…」

ひどいわね、と言い捨てながらナミさんはため息をつく。

「えへへ…すみません…」

たしかに我ながら女の子らしくない声をあげたことに苦笑いした。

するとナミさんが「それで?なに見てたのよ」と先ほどの質問を問いかける。

「あっ、あの…!」

私が見ていた先を覗いたナミさんは、私が言う前に目をぱちくりさせたままこちらを見てきた。

「ゾロじゃない。なにか用事でもあったの?」
「ちょっとだけ…!助けてくれたお礼を言いたいなぁと思ってたんですけど、ゾロさん寝ていたので…」

理由を聞いたナミさんは、ふーんと顎に手を当てる。そして、にんまりと目を細めて私を見てきた。

ちょっと怪しい雰囲気に、何を言われるんだろうと身構える。

すると、ナミさんは私ではなくゾロさんの方を向いて口を開いた。

「ゾロ!!ちょっと起きなさい!!」

いきなりゾロさんに声をかけたナミさんに私は驚いておろおろとした。そんな!何をしてるんですかナミさん…!

「…あ゛?…」

気持ちよく寝ていた所を大きな声で起こされたゾロさんは案の定、不機嫌な様子である。

大きな欠伸をしてから寝起きのドスの効いた声で喋り始めた。

「…んだよ」
「なまえが用あるんだって、聞いてあげてちょうだい」
「えっ」

ゾロさんの眼光に諸共せず、ナミさんはさらりと伝える。それを聞いていた私は思わず声をもらした。

「ほら、起きたんだから言いなさいね」
「えっ」

流れるように進むので私が追いつけないでいると、ナミさんはゾロさんから見えない位置で私にウィンクをしてきた。

そして、「それじゃあね!」と颯爽に去っていくナミさん。

ナミさんのウィンクはとても綺麗で女の私でも見惚れそうだったけれど、今はそんな状況ではなかった。

振り向かなくてもわかる、鋭い目線がひしひしと頬に突き刺さってくる。

う〜…すごく怖いよ…!きっと目で人を殺せそうな形相をしているであろう彼の方に意を決して私は振り向いた。

「あの…!」

目が合い、思わず言葉が詰まった。こんなわかりやすい態度してたら失礼だと分かっても怖い人は怖い。

「あの、無人島で私を助けてくれたのってゾロさんですよね…?」
「……」

たどたどしく綴られた言葉にゾロさんは何もいうでもなくただジッと私の顔を見上げた。

「えっと、助けてくださってほんとにありがとうございました!」

私はバッと勢いよくお辞儀をした。

「…用ってそれだけか?」

ゾロさんの声が聞こえて、私は慌てて体を元に戻す。

それだけ、と問われなんて返せばいいか戸惑った。

「は、はい。直接お礼を言っていなかったので」

おそるおそる、そう伝えるとゾロさんはうんともすんとも言わずまた沈黙が続く。

「どういたしまして、とでも言えばいいのか?」
「えっ?」

やっと口が開かれたら、思ってもみなかった返事に驚いた。まさか、怒らせてしまったのだろうか。

「お前、俺のこと苦手だろ」
「!」
「べつに無理してまで礼なんて言わなくていい」

図星を当てられ動揺してしまう。

たしかに、バレバレな態度で申し訳なかったけれど冷たい言葉にチクリと胸が痛んだ。

「たしかに苦手かもしれません…!でも助けてもらえなかったら私恐竜に食べられて死んでました」

顔を見れず、俯きながら伝える私。

「ゾロさんはいわば私の命の恩人です!だからお礼はきちんと言いたいと思ってました」

顔を上げれば、ゾロさんはギョッと目を見開いて固まっていた。

「変なやつ」

そうぶっきらぼうに呟くゾロさん。

「もう恐竜なんかに食われんなよ」

続けられた言葉に私はパアッと笑顔になった。ちょっとだけど、気が許された気がした。

「はいっ、ほんとにありがとうございました!」
「しつけェ、もういい」
「はいっ」

あまりの嬉しさに2度もお礼を言ってしまった。

ゾロさんがうんざりしたような様子でそう言ってきたけれど、私はルンルンでその場を後にした。


09. ぶっきらぼうな緑の人

(あとでナミさんにもお礼を言わなくちゃ!)

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