03



結局授業なんかに集中できなくて。

自分で言うのもアレだが授業は真面目に受ける方で、相澤先生をはじめクラスメイトの人たちが物珍しそうな顔を浮かべていた。

私も和気藹々とした雰囲気のなかで楽しく参加したかったのだけれど、今では後の祭りだ。

所変わって、校舎からほど遠く離れた裏庭。足を進めるたび雨上がりの芝生から露が零れそのまま履いてきた私の上履を濡らす。

私の目の先には、クリーム色のツンツンとした背中が揺れている。

授業が終わったあと、教室を出た爆豪くんの後ろを少し離れながらついてきた。

黙ってついてきたけど、どこまで行くんだろう。

ついていくにつれて、段々と人気が少なくなり不安な気持ちを抱いていれば数メートル間を空けた先で彼が歩みを止めた。

私もピタリと足を止める。

先に謝ったほうがいいのだろうか。聞かれるのは十中八九”あの事”だろう。言おうか言うまいか悩んでいると爆豪くんがこちらを振り向いた。

「まどろっこしいのはめんどくせェから単刀直入に聞く。”アレ”はテメェの個性か?」

なんとも彼らしい聞き方だと思う。怒鳴るイメージが強くて静かに問われた声音に驚いたがやっぱりちょっと怖い。

仲もよくないのにタメ口を利くのもなんだか変で、あの出来事のことについてしどろもどろに話し始めた。

「そうです…私の個性、テレポートで…」

そう言いながら、ちらりと彼の顔を覗いてみるが威圧的な態度は変わらず眉ひとつ動かさない。

うっ…と言葉を詰まらせていれば、今度は爆豪くんが口を開いた。

「じゃあなんで俺の部屋に現れた」
「えっとそれは…ちょっと失敗してしまって…」

私の個性、テレポートは自分自身や物体を離れた場所へ瞬間的に移動できる能力。

SF映画なんかでメジャーな能力でかなり便利だと思われていると思う。

けれど実際は空間把握やら座標計算やらとても複雑で、ある程度座標を頭の中に入れておかなければ、転送先にちょっとズレが生じてしまうのだ。

だからと言って、失敗をして剰え言い訳をしていい理由にはならないだろう。

それを物語るかのように、目の前の赤が見開かれこれでもかというぐらい吊り上がった。

「お前この歳にもなって個性のコントロールも出来ねェのか!?」
「ヒッ…! ごもっともですごめんなさい…!」

自分に向けられた怒声に身が縮こまった。

緑谷くんに対して吼えている姿は何度か学校で目にしていたが、怒りの矛先が自分に向くのでは段違いだ。

呆れた…なんてため息と一緒にそんな言葉を溢され、思わず顔が俯く。

「故意的じゃなかったとしてもクッソ迷惑だわ」
「…それについては、ほんとにごめんなさい」

ぐうの音も言えなかった。

個性のコントロールの精密さが欠けているのは、怠惰の証拠。

なんとなく人を救える仕事に就きたいなと思って、なんとなく雄英に入れて。

ちゃんとした志を持ってヒーローを目指している爆豪くんに言わせれば“なんでお前が同じ土俵(A組)に立ってんだ”って感じだよね。

居た堪れなくなり唇を堅く結んで、少し汚れた自分の上履とその先の大きめの靴を見やる。

「もう用はねェ」

そういう彼の足は、こちらへ向かってくる。ちらりと爆豪くんの顔を覗いたが、赤い瞳に私は映ってはいなかった。目を逸らそうとすれば、彼の口が動く。

「学校以外で二度と俺の前に現れんなやモブ女」

すれ違いざまに吐かれたそのセリフがちくりと胸に刺さった。



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