今日もいい天気。

梅の花が咲き、優しい風が頬をふわりと撫で、まさに小春日和といったところだろう。

「土方さん、お茶入れてきましたよ」

副長室の前に立ったなまえは戸を軽く叩く。しかし中から返答はなかった。

「土方さーん…? 入りますよ?」

このままここに立っていてもお茶が冷めてしまうので、となまえは言い訳を頭に思い浮かべながら、そっと副長室の戸を開けた。

中を覗いてみると仮副長の土方さんがちゃんといらっしゃった。視線を下すと手元には筆が握られており、机の上にある帳面に向かって睨んでいるような難しい顔を浮かべていた。

(…? 何書いているんだろう…?)

仕事の資料ではなさそうな、帳面に書いている土方に見入ってしまう。

そこには、

「…俳句…?」

つい声に出してしまい、慌てて口を押える。その声に気づいた土方はバッとこちらに振り向いた。

「な、なんでお前がいるんだ…」

驚きと焦りを隠せない土方。軽く睨まれたので少しおどおどしてしまった。

「いや、あの…外から呼んでも返事がなかったので…」

そういいながら、お茶を土方に渡す。

「あぁ、それなら悪かった…ついでなんだが」

なまえに渡されたお茶を受け取りながら土方は小さくため息をついた。

「このことは誰にも言うなよ、特に総司にはな」

土方の意外な一面を見れたようでふと頬が緩んだ。

(見られたくないんだ…あの鬼の副長さんも結構人間臭いところあるんだなぁ…)

「承知しました。…でも差し出がましくて申し訳ないのですが、結構好きだなぁと思いましたよ」

"しれば迷い しれば迷わぬ 恋の道"…でしたっけ?と口にする。

「…本当か?」

なまえの言葉にハトが豆鉄砲を食らったような顔を浮かべる土方。

てっきり、馬鹿にしてんのか?なんて怒られると思っていたのに…その意外な反応になまえも目を丸くしながら「はい」と頷いた。

すると、あの仏頂面の顔から

ふっ、とあの土方が笑った。

「そうか…」

そう照れた様子で、ふいっと前を向く。

少し失礼だけど、いつもの態度からじゃ考えられないほど、土方さんが可愛らしく見えた。

「これから茶を持ってきたとき、見るか?」

「…はいっ! 喜んで!」

ーーーーー

(土方さん…)
(なんだ?)
(「梅の花 一輪咲いても 梅は梅」ってどういう意味ですか?)
(………。)

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